68.地元料理
こちらに移住した集落民は慣れたものだ。俺は移住に際してけっこう心配していたが、もともと北海道駒ケ岳の噴火の時は青森側に来た人も多く、いろいろ話を聞いていたのだろう。周りの集落民とも同じ物見の氏族ということだけでなく、親密にやっているようだ。
酒づくりは山葡萄の酒が若干量しか作ることができなかった。それを全てこちらの物見の氏族の最大集落、カンナアリキが首長を務める集落に持ち込んで、かわりにその集落に行って酒盛り宴会をするようだ。迷惑かと思ったが、向こうもそれがいいと乗り気で酒を運ぶのを手伝ってくれた。
ただ、近いとはいえ吹雪いたら帰ってこられないと思ったら、そういう時は遠慮なく泊まり込むらしい。
さて、青森の集落は俺が転生して1年で十和田湖の噴火で移住を余儀なくされたが、冬の味覚はそこそこ楽しめた。麺の作成はとん挫したままだが。
ここは北海道の函館。現世と違って洒落たレストランも鮨屋も居酒屋もないが、北国ならではな冬の味覚はあるはず。
函館の冬の味覚のひとつといえばクジラ鍋。
縄文時代にあるのか?
いや絶対あるはず。なぜなら、青森のほうの塔の集落でクジラかシャチのような鯨類の骨でつくった呪術師用の刀?みたいのを見たからだ。
それと、ここより北だが現世の噴火湾の伊達市近辺の遺跡だったと思うが、今俺のいる時代に近い遺跡でクジラの骨が見つかっているはず。
ここは神の立場を利用してでも材料をそろえて食べなければならない。
ほかにも、前回、少ししか食べることができなかったゴッコ(ホテイウオ)もこちらが本場のようなもんだ。
レブン・ノンノに聞いてみると、母親のカンナアリキ首長が詳しいという。
さっそく、レブン・ノンノとカンナアリキの集落へ行き、そこらへんの食材について聞いてきた。
ちなみ、導きの炎ではないが、小さいながらも大堂に似た大きな竪穴式住居を作ったので、そちらの火を絶やさないよう巫女の仕事が復活したので2人は留守番だ。
カンナアリキに聞くと、やっぱりあった塩クジラ。なんの種類かはわからないけど、クジラの表皮の脂部分を塩蔵した塩鯨がありました。そして、もう一つ大事な食材。
「ニオ、ニュ、ニュウ、エゾニュウ、ニュウサク、サク?」
なんと!!通じた。
ただ・・・
「ニュウですね。シウキナ(苦い草)ですか?チスイェ?」
俺の頭の中では「エゾニュウですか?アマニュウ?」
と訳された。
あれ?鯨鍋ってエゾニュウのほうだったと思ったけど・・・?
エゾニュウの塩漬けを使ったような気がする。
アマニュウ?
もしかしたら?
「シウキナの塩漬けが欲しいです。」
「そちらのほうがいいと思います。私の好みもそちらです。」
やっぱり多少試されているな。
話を聞くとシウキナ(苦い草)は塩漬け、チスイェは普通に湯がいて食べられるし、保存する場合は煮てから皮を剥いて乾燥させるのだという。
あの独特の歯触りがいいのだ。とはいっても、チスイェは食べたことがなかったので、それも少しだけもらうことに。美味しかったら来年の採集リスト入りだ。
「全て材料は用意しますので、こちらで作って皆で食べてはいかがですか?」
カンナアリキは冬至の夜の宴会のかわりに、穏やかな日を選んで昼から交代の宴会を提案した。
確かに鍋は大勢のほうがいい。土器も移住してすぐで日々の調理の最低限しかない。ここは言葉に甘えて、こちらで調理して皆で食べたほうがいいのかもしれない。




