65.使命
俺は3人の巫女たちと一緒に寝ている。
巫女は3人いて、俺の隣に寝たがるが、必ず1人は隣になれない人が出る。そこで、並びはローテーションで決まっている。
今日は隣はカンチュマリとレブン・ノンノのはずだが、レブン・ノンノは今日は隣じゃなくていいという。
俺はいいから隣に寝なさいと半ば強引に引き寄せて横になった。
レブン・ノンノは横になっても顔をうつ向かせるようにして、目を合わせない。
俺「今日はこわかったね。でも、もう大丈夫だから。悪い神はもう去っていった。」
レブン・ノンノ「良い神様も去ってしまうのですか?」
俺「良い神様って?」
レブン・ノンノ「神々の沸き立つ湖の火の怒りも私たちの集落にまで来ませんでした。私聞いたんです。東の集落が全部灰に覆われて誰も助からなかったって。そのあと、みんなで半島の集落に移ったり、ここにも無事にたどり着くことができて。そして、悪い神も退治して。全部オホシリカム様がやってくれて、そしたら天の神々のもとに帰ってしまうんじゃないかって。」
レブン・ノンノの後ろから、今日は隣じゃないアシリ・クルも心配そうに肩ごしにこちらを見ている。振り返るとカンチュマリも不安そうだ。
そうだったのか。ヒグマを倒すときの不死の異常性よりも、俺が全部いろいろやりこなして、何事も片付いたら来た時と同じように去ってしまうんじゃないかと心配しているのか。
そういえば、レブン・ノンノだけじゃなく、こちらに渡ってから巫女たちの様子がおかしかった。最初は自分たちが管理してきた塔もなく導きの炎もない、自分たちの必要性を感じられず不安になっていると思っていたが・・・。
そういえば、はじめてカンチュマリと話をした時のことを思い出した。
俺「カンチュマリ、俺は何を期待されてここに?」
カンチュマリ「ここはまだ周りと比べると豊かな村ですが、ほかの地では死の灰に覆われたとか、大波にのまれたとか、大いなる災いの噂が絶えません。昔は多くあった巨木も少なくなり、海の魚たちも数が減り、大きさも・・・川は赤い水や、臭い白い水を流し、大いなる白い峰々の一部は焼けただれ、神々の大きな湖も沸きたっているといわれています。今は暮らしていけますが、どうか道をお示しいただきたいのです。」
ここまで無事に来たことに、神が道を示された結果だと思っている。ここでもう充分なくらいだと思ってくれているのか?俺は何も成し遂げていないし、何もかも不十分だが。
俺「まだ道は示していない。たぶん、君らの子が、子を産み、その子がまた子を産みと数百代重ねても道は示しきることはできないと思う。俺が去るのではなくて、そうやって、お前たちが去り、俺はいつも取り残される。それを何度も繰り返す。だから、君たちは悲しまなくても不安になることもないよ。悲しむのも不安になるのも、それが神の長い務めなのだから」
正直、来た時と同じように突然、この世界から連れ出される可能性も考えたが、なぜかその可能性よりも、いま巫女たちに話しかけた言葉が頭の中に自然と浮かんできた。
ここが、異世界とか過去の日本とか関係なく、そばに寄り添い、見続けることが、使命なんだという思いが込み上げてきた。
たぶん神という仕事もそんなところじゃないだろうか。人のために何かを成すというよりは、ただ見守るだけという気もする。
ただ、彼女たちとの出会いが、それに抗いたい気持ちも少し湧かせたような気もする。
それが、ここが異世界か過去かの判断の葛藤になっていたのかもしれない。
異世界か過去かというのは最後の最後までわからない、もしかしたら最後になってもわからないかもしれない。
ならば、できることをできる範囲でやろうと決心した。
レブン・ノンノ「ごめんなさい。これからもずっとそばにいてください。」
涙を浮かべながらそう言って抱き着いてきた。他の2人も抱き着いてきた。
まだ、暑いなんだけど、その夜はまったく離れようとしなかった。
ウェン・カムが倒れこんできた時よりキツイ夜だった。




