高温湯
集落民たちも交代で温泉に行くことにした。
温泉は現世の函館市湯の川温泉の辺りにある。ただ、そこは大半が河口の湿地帯と砂山になっていた。集落へ通じる道ではなくて、先ほどウェン・カム(悪い神=悪い熊)を倒した場所と反対側、つまり下流方向に歩いていくと丸石の多い河原から砂の多い河原になってくるあたりに、いくつか露天風呂が掘られていた。
湯量は豊富なようだ。
露天風呂の底からはプツプツと気泡が上がっている。
やや茶色の色をしているが、底は透けて見えている。底も赤茶色だが、湯面の石の縁などは白い石灰のような湯花が付着していた。
現世で入ったことはあるが、函館は高温の風呂が好きな市民性だ。地元の人は唸りながら高温の温泉に入っているのを何度も見ている。
温泉に行こうと言い出した俺だが、それを思い出してお湯の温度が気になった。
大丈夫、高温湯ではなさそうだ。
カンナアリキ「オホシリカム様はこちらへ」
なぜか隣の湯壺に案内される。
先ほどの露天風呂より一回り小さいが、お湯は透明で、底は赤茶色、周りの石や砂地には石灰らしきものが付着している。気泡はさっきの風呂よりもっとたくさん出ている。
手を入れて温度を確認するが高温湯だった。
カンナアリキ「ここは原初の神々の祝福を受けた源泉になります。どうぞ、こちらをお使いください。私と、長老、古老だけの入ることができるお湯になりますのでどうぞ遠慮なく。私も入りますが、お先にどうぞ。」
いくら不死でも熱湯風呂は無理です。
触った感じは函館の熱湯で有名な某温泉銭湯の高温湯に匹敵する温度だ。
だが、カンナアリキもここに入るという。
覚悟を決めて熱湯風呂に入る。
不死とは言え、痛みや熱さの感覚などは一定のレベルまでは感じるらしい。
唸りながら少しずつ入っていく。
正直に言って、もう少し熱さの感じるレベルを引き下げて欲しいと思うくらい熱かった。
我慢して入ると、カンナアリキもお湯に入ってきた。唸りもせず静かに入ってくる。
肩までは無理なので胸のあたりまで入って、動かずじっとしているが、一度お湯から出ることに。ちょうどお湯の浸かった胸から下が真っ赤になっている。
俺「皆を労わりたいので、あちらに入ってきます。」
カンナアリキ「そうですね。こちらの湯は熱くてよいのですけど、長く入れませんし、あちらでゆっくりしましょう」
カンナアリキの白い肌も真っ赤になってるじゃないか。
俺たちも、皆と同じ露天風呂に浸かることにした。
レブン・ノンノも一緒に入っていたが、あれ以来、あまり目を合わそうとしない。
俺「レブン・ノンノ、頭を洗って欲しいのだけど」
この時代、この世界、そして穴を掘っただけの野天風呂に桶なんて気が利いたものはない。
頭を洗おうとするとそのままお湯に沈むしかないだろうが、公共の風呂でそれはないだろう。
実際彼らも、フキの葉をたくさん持ってきている。それで、柄杓を作りお湯を汲んで頭にかけたりして洗うのだ。温泉なので洗剤、もとい洗剤はないが、香油や植物の搾り汁を使ったりせずにきれいになるのだともいっていた。
フキの柄杓は手を離せなくなるので、頭を洗う時は誰かにお湯をかけてもらうのが一番いい。彼らもお互いにそうしている。
レブン・ノンノはフキの葉を持って俺のそばに来た。
そして、おそるおそるお湯を頭に流しかけてくれる。
レブン・ノンノ「よろしいでしょうか?」
俺「うん、では交代しよう。」
レブン・ノンノは大人しくお湯をかけられているが、やっぱり緊張しているような気がする。
他の巫女もそんなレブン・ノンノを気にしているようだった。
アシリ・クル「オホシリカム様の闘いを見られなかったのは残念だ。私はオホシリカム様の戦士の一撃を見たが、あれを見てオホシリカム様に仕えようと思い巫女になったのだ」
あー、微妙なこと言っちゃったな。
たぶん体を裂かれるような状態になっても、石器が手にめり込んで毒が全身に回ろうとも、お互いにつかみあい死闘を繰り広げる神の称号を持つ者同士の闘いは、たぶん実際見たらショックなのだろうから。
アシリ・クルが見た槍の一撃ならば格好もつくかもしれないが。




