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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
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待伏せ II

昼近くになってこちらの物見の氏族の首長カンナアリキを集落に送っていくことになった。

最近は、カンナアリキの集落を訪れるときは必ず娘であり、巫女であり、俺の神嫁でもあるレブン・ノンノが同行している。


集落間の道はほとんどが海岸段丘の上で見通しが良い。途中川が流れているので若干低い場所があるが、その部分はわずかの距離だし、海岸段丘の上からもほとんどの場所が見通せるから大丈夫だろう。まして、真昼間、いくらウェン・カムでも襲ってこないだろう。


カンアリキは首長でしか集落外に持ち出せない猛毒の毒壺を背中の背負子に入れて歩いている。俺は槍を持ち、山葡萄の樹皮で編んだポシェット新しく到着した黒曜石で作った槍の先の見本を3本入れているだけだ。

レブン・ノンノは母親であるカンナアリキと楽しそうに話をしながら歩いている。


集落を出るとすぐに、海岸段丘から川の流れる谷に一度降りるが、斜めに内陸側に道が続いている。さほど急な坂ではない。

その坂を下りると河原だが、一面に背丈より高い湿生の植物が生い茂っている。この道で見通しが悪い唯一の区間になる。川を渡りきるまでのほんの100メートル程度の距離だ。


念のため先を歩いていた2人はすぐ後ろを歩いてもらう。


それは突然だった。


俺が丸木橋を渡り終えた瞬間にやや後ろの左側の草むらから焦げ茶色の巨大な塊が飛び出した。


カンナアリキはレブン・ノンノを庇うように抱きしめ、丸木橋から倒れるように落ちていった。

俺は向き直し、槍を構えて突き刺そうとしたが、相手はすぐに気が付いてこちらに向き直す。


ウェン・カム(悪い神=悪い熊)だった。


槍を突き刺そうとするが、ことごとく前足で払われる。立ち上がり隙を見せない相手に、ツキノワグマと同じように、前足の届かない上から頭を狙うが、あまりに巨体過ぎるのと、丸木橋側の高い位置をとられてしまって、槍の攻撃はすべて前足で防御されてしまう。


体制を立て直さないと、かなり悪い状況なのに加えて、丸木橋から落ちた2人も心配だ。

おれは槍を前に構えながら、後ろ向きに草むらに入り河原に出た。


丸木橋はもう岸側で落差が少なかったせいもあり、2人は無事だった。


ウェン・カムもすぐに河原におりてきた。


カンナアリキ「オホシリカム様、これを!!」

カンナアリキは毒壺を背負子から取り出し、差し出した。


しかし、ウェン・カムと対峙して槍を構えて、1本しかない槍の先に毒をつけ直す余裕はない。


俺は意を決した。

前に起きたこと、それが本当なら大丈夫なはずだ。

そして、それがここが過去の日本、異世界の判断の基準になるかもしれない。


槍は右手で構えながら、目線はウェン・カムの目線とはずさず、左手でポシェットに入っている黒曜石の槍の先の部分を手探りで取り出す。


俺「カンナアリキ様、これを毒壺に漬けておいてください。」


黒曜石の鋭いむき出しの槍の先を後ろ向きに差し出した。

レブン・ノンノが受け取り、カンナアリキに渡して、彼女はすぐに毒壺に漬けてくれたようだ。


俺「毒壺を置いて後ろにさがってください。」


先ほどの道と違い、この河原は集落からも見えるはずだ。見張りのものが気が付けば駆けつけてくれるはずだ。


ただ、ウェン・カムもそれはわかっているだろう。

だからこそ、見通しの悪い場所で待伏せしていたのだから。


ウェン・カムは悠然と距離をつめてくる。先ほどより、同じ立ち位置なので、少し頭の上への攻撃もできるが、巨体であるにも関わらず、俊敏に槍をかわしたり、前足で払いのける。払いのける力はものすごく強力だ。

槍がなんども折られそうになる。


ついにウェン・カムは槍の先を前足で押さえ込んだ。

槍は強く押さえ込まれて、俺は槍が折れないように低い姿勢になってしまった。

ただ、この状態ではお互いに手出しできない。


動きが止まった一瞬だった。

ウェン・カムは優位になった状態で、次の一手で決めようと考えたのだろう。

ついに勢いよく立ち上がった。

その隙をついて槍を突き上げた。


槍はウェン・カムの胸の部分に突き刺さったが、その一瞬、ウェン・カムの左手が俺の首にかかった。

普通の人間なら、熊の前足の一撃で頸動脈どころか首の大半を引きちぎられていただろう。しかし、俺の首にかかった熊の爪は大きな傷口を作りつつも、妙な匂いの煙を発しながら、熊の爪を溶かしながら、高速で傷口がふさがっていく。


以前、石器であやまって手を怪我した時より早く回復している。早くというより一瞬だ。


しかし、爪を失いながらも、ウェン・カムの凶悪な手は、槍も払いのけ途中から折られてしまった。

突き刺さった槍も抜けてしまった。

ただウェン・カムの胸には槍の突き刺さったとに真っ黒な血がどくどくと滲んで広がっている。


俺はすぐに後ずさり、毒壺のなかに手を入れると、たっぷりと毒が浸み込んだ、黒曜石の石器を両手に持った。

そして、ウェン・カムに飛びかかった。

ウェン・カムは四つん這いの状態だったが、俺は頭に飛び掛かり石器を首の部分に突き刺して、すぐに離れた。

その瞬間、ウェン・カムは立ち上がった。

俺は、残った毒まみれの石器を強く握り、ウェンカムの先ほど槍の刺さった傷口めがけて突き刺した。

さらに深く突き刺すために手のひらで押し込むようにして。


石器は先端側ほどではないが、柄の側も鋭利に削られている。俺の手に毒の浸み込んだ石器がめり込んでいく。骨にあたりそれ以上は深く刺さらないだろうが、ウェン・カムのほうは先に槍で突いた傷口をズブズブと石器が沈み込んでいく。


その瞬間、ウェン・カムは咆哮をあげながら、両手で俺の背中を掻きむしるように爪を立てた。左手の爪は先ほどの一撃で失ってはいるが、それでも、ものすごい力で体が引きちぎられそうになるが、先ほどの時と同じように妙な煙を発しながら、ウェン・カムの爪は溶け消えて、やがて力なく空を掻くようになり、俺もろとも前に倒れこんだ。


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