眺めのよい丘
こちら北海道側の物見の氏族の集落には塔がない。
というのも、塔が無くても眺めがとてもいい。どの集落もそうだったが、海岸段丘の縁のほうにあり、海が一望できるのだ。そして、俺たちの新しい集落は特に、現世でいうところの函館山、そしてその向かいの海岸段丘の上に並ぶ集落も、そして、朝日も、夕日も素晴らしい眺めを独占できる場所なのだ。
こんないい場所が、なぜ、今まで集落ができなかったか?
地元の古老(長老は意外に若く、体の衰えを感じると長老をやめて古老として大人しくしている)たちに聞くと、昔は集落があったという。以前は最短の戸井から大間への航路で行き来していたが、あまりにも戻ってこないものが多く、徐々に西の航路、つまり松前半島から津軽半島、現世の青函トンネルの真上の航路に代わってきて東側が寂れてきたのだという。
さらに塔がない理由はこちらにはクリの木など高い塔を建てる素材となる木が少ないのと、建てる技術は西の深緑の王の氏族しかないためだともいう。
それでも、巫女や俺、呪術師のために2メートルぐらいの高さの高床式の寝殿を3棟作っていてくれた。
寒いから普通に竪穴式住居でいいのだけど。
1棟は俺と巫女、1棟は長老会議及び客人用、残り1棟が呪術師用だが、呪術師は1人しか連れてこなかったから彼が一番得をしているような気がする。まぁ冬場の寒さは1人じゃ大変だとは思うけど。
カンチュマリ「オホシリ様、私たち巫女も夜の番をいたしましょうか?火の扱いには私たちが一番慣れています。」
今まで導きの炎を絶やさないようにやってきた巫女だ。
それが噴火の地震で俺がその炎を消して以来、彼女たちの仕事は無くなっていた。
俺「いや、ここの熊は女子供を狙うウェン・カム、悪い熊だ、しかも悪くとも神の名をいただく者だ、狙われないように夜は出歩かないようにな。」
カンチュマリ「はい、わかりました。」
俺「でも、悪い神を退治したら、ここでも導きの炎を焚くことにするから、それまでのゆっくり休んで体を壊さないようにな。」
8月に入ったあたりだろうか。まだ陽は長く、夕日にキラキラと照らされた海峡を巫女たちと眺めながら、ウェン・カム(悪い神=悪い熊)をどう向かい合うのか考えていた。




