函館
函館は俺の知っている風景と全く違っていた。函館山は見えるが、島のようになっていた。かろうじて島へ向かうように砂洲が伸びてはいるが、干潮になってやっとつながるような感じだ。山側の海岸段丘のようになって一段高いところに集落が何か所か散在している。
函館は2年ばかり仕事で住んでいたことがあるので、懐かしく思うのかな?と期待していたが、俺の知っている函館の町の多くは白く広い砂浜と海だけになっていた。
俺たちはそのうちの最大級の集落に向かった。
こちらの集落も大半が物見の氏族で同族になる。前にも結婚のことでいろいろ調べたが、近親でグループを作っているとどうしても子供を作る場合の組み合わせが難しくなってくると思っていた。それの問題解決も含めて、集落間で嫁いだりすることも多いのだという。だから、意外に海峡を挟んでも繋がりが強いのだそうだ。
巫女のレブン・ノンノも向こうの集落に残してきたミナ・トマリもこちらの集落の出身だ。ミナ・トマリのほうは家族で海を渡ったが、レブン・ノンノの母はこちらの集落の者だと聞いた。
俺たちを出迎えてくれたのは、集落首長のカンナアリキ(再来)。
白髪というには若いが、銀色の美しい髪の女性の首長だった。
カンナアリキ「大変でしたね。こちらは火の山の活動もおさまり、豊かな大地が戻りましたので、安心してご滞在ください。少し不便ですが、そのための場所も用意いたしました。」
俺「集落周辺の復興までこちらでお世話になります。どうぞよろしくお願いいします。」
そのあと、巫女のカンチュマリ、アシリクルと挨拶したがレブン・ノンノは少し恥ずかしそうに俺の後ろに隠れている。
カンチュマリに促されて挨拶する。
レブン・ノンノ「お母さま、ただいま帰りました。また、向こうに戻ることになると思いますが、それまでよろしくお願いします。」
髪の色が似ていると思ったが親子だったのか。
カンナアリキ「大きくなりましたね。塔の巫女として本当に立派になって。あとでお兄様たちに会ってお行きなさい。」
兄弟もこちらにいるようだ。
後で話を聞くと、10年前に北海道駒ケ岳の噴火で父親が亡くなったそうだ。集落自体に被害はなかったが、レブンノンノの父親の交易団が北から帰る途中に噴火に巻き込まれたのだ。
さらに、俺たちと同じように集落自体に被害がなくても、採集・狩猟場が減少して、青森側の物見の氏族に移住した人々もいるのだ。大半は7、8年で戻ったが、ミナ・トマリの家族のように青森側に残ったものもいた。
当時長老格だった父親の代わりを務めた母のカンナアリキは子供が多く、子育てと長老の仕事の両立、それも平時なら皆の助けで全く問題ないが、火山噴火の直後だったので1人だけ女児だったレブンノンノをミナ・トマリの家族に預けて青森に向かわせたのだ。
カンナアリキ「オホシリカム様には少しお話したいことがあります。」
なんだろう?
レブン・ノンノを神嫁にしたことだろうか?




