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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
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5.宴

宴会は大いに盛り上がった。宴会というよりは彼らにとっては祭りなのだろう。


本物の神さまが降臨された最初の祭り。


祭りは神様のためのものだから、神も楽しむものだとカンチュマリに説得させた。なかなか平伏を解いてくれないし、料理にもなかなか手を出そうとしなかったからだ。

だから、こちらからいくつかリクエストをした。歌とか踊りとか、最初はどうやら神に関連する歌や踊りで真剣そのものだったが、俺が具体的に結婚の時にはどういう歌を歌うのか?とか収穫があって神に感謝するときは?とか訪ねて歌ったり踊らせて、それに手拍子などで答えているうちに少し打ち解けたようだった。

彼らも緊張の中の歌と踊りの披露で疲れと空腹が感じられていたのだろう。酒を飲み食いしながら歌や踊りはあるのかとか聞いたところで、彼らはやっと意図を理解したのか、飲み物、食べ物を口にしながら、交代で俺の前で歌や踊りを披露するようになった。


カンチュマリが神様も遠慮なくというので、俺が料理を指さすと、傍らにいた2人が即座に土器の皿に取り分けて持ってきてくれた。相変らずこの2人はこちらへ低頭したままで顔を見せてはくれないが、塔にいたときよりは頭が少し高くなってきている。


さて、相変らず神様用の食事には手を付けないようだが、もっと打ち解けて欲しいので、おれは神輿から降りようとした。するとカンチュマリはそれだけはご容赦くださいと止めてきた。

必死にお願いされるものだから思いとどまったが、カンチュマリを呼んで、神様用の料理も皆で食べて欲しいと伝えた。

カンチュマリはそれを前のほうにいたおそらく長老と思われる数人い伝えると、長老たちが進み出て長い匙を使って器用に料理を取り皿に取り始めた。俺はカンチュマリを呼んで、長老たちの名前と簡単に役割などを教えてもらい、直接長老たちに声をかけてよいか尋ねた。


俺「アシリ・ウパシ(新しい雪)あなたが私をここへ降ろすための方法を探し求めて南の地へと赴いて見事その方法を伝えたと聞いたが?」


アシリウパシ「はい、この地には神は降りられていませんでした。はるか南の地では神が降りられたとの伝えを聞き、大いなる白き峰々を超えて、神々の煮えたぎる海(湖)のほとりを進み、黒きクル・マンタ降神台の地に行き技を学びました。」


俺「ではあなたが神降ろしの儀式を行ったのですか?」


アシリ・ウパシ「いえ、儀式は神聖なる巫女の呪術師でなければ行うことができません。カンチュマリ巫女の大叔母さまである黒き・太陽クル・シュプ巫女が行いました。」


俺「その、クル・シュプ巫女とは?」


カンチュマリ「神様を降ろしたとたん、亡くなられました。」


俺「それは、神降ろしには代償が必要ということですか?」


カンチュマリ「いえ、そうではなくて、もともと病にて長くはありませんでしたので、お気になさることではありません。」


俺「アシリ・ウパシよ。あなたの伝えがこの地に伝わらなければ俺はここにはいまい。ぜひ、盃を受け取ってほしい。」


俺は傍らの土器をカンチュマリに渡すと、カンチュマリは俺の前にある酒の入った大きな土器からさっき飲んだ赤く強い果実酒を一掬い酌むとアシリ・ウパシの前に差し出した。アシリ・ウパシは跪いて土器を受け取ると一気に飲み干した。


俺「ミツ・ハ・キミ(新緑の王)よ。あなたが塔を建てたとか。素晴らしい眺めに素晴らしい造りをしているではないか」


ミツ・ハ・キミ「ここ数百年、この地は徐々に巨木が失われてきております故、西の深緑の王国ほどの神殿を建てるに至りませんでした。本当に申し訳なく」


俺「いや、素晴らしい。後々の世まで残る偉業だろう」


そう、数千の後に大発見として世界遺産にもなる遺跡の重要遺構のひとつかもしれない、大偉業と言って問題ない。


俺「しかし、その西の深緑の王国は興味深いな」


ミツ・ハ・キミ「私の大叔父がそこで塔建設を行っております。私もそこで修業した成果に私独自に考えた手法を加えて建てております。」


俺はミツ・ハ・キミにも盃をとらせた。


アカル・ヒ(瑪瑙の翁)とアヂ・ノ・チプ(黒曜石の船)の二人は商隊を組む長。この二人にも声をかけた。名前から察するに北海道との交易を行っているのだろう。


同じく交易系の長、アペ・ルイ・ト・ヒ(燃える土の翁)、ミツ・ソ・ピ・ヒ(緑青の石の翁)この2人も重要人物。あおそらくアスファルトとヒスイか何かの宝玉関係の長老だろう。


そして、最後がウルシ・アチャ(漆の伯父)彼は漆だけでなく、土器含めこの集落の工業(工芸)関係の最高責任者のようだ。


彼らがこの集落の長老達だが、実際は長老というにはもう少し若い指導者たちだった。その後ろに、食料の採集、加工、保管の責任者たちがいるようだが、この集落は周囲の恵まれた自然環境のおかげと、多少の栽培植物でほぼ100%の自給率で、主に交易品の物々交換で、ほかの集落よりはかなり恵まれた集落なのだろう。


彼ら長老格の7人とその下のあわせて12人ほどに盃をとらせて、俺もほろ酔いになったところで宴もたけなわになってきた。


俺は立ち上がると、カンチュマリを呼んだ。

自動翻訳になるか不安だったが・・・。


俺「トイレは?」


カンチュマリ「後ろの衝立の影です。」


後ろを見ると神輿の置かれた台座の後ろには大きな衝立。しかも見事な木彫りで何とも形容しがたい文様が彫り込まれている。その裏に回ると、真ん中のくり貫かれた丸太が建っている。それはちょうど椅子の高さになっていて、蓋がない洋式トイレのようになっている。覗き込むとまだ使われた形跡がないが、下は闇になっている。立ったままだと頭が衝立の前のほうから見えそうだったので、座ってすることにした。

音が響く。水琴窟じゃないけど、下に土器の大きな甕が置かれていて、小水が落ちるとその水音が反響して結構大きな音になる。そんなときに限って、なぜか宴が静かになっている。どうやら聞き耳を立てているようだ。


神の小便の音を聞いてどうしようというのだ?


恥ずかし気に席に戻ると長老たちが嬉しそうにしている。カンチュマリに聞くと、俺が小便をしたおかげで、神が本当に宴と酒や食べ物を楽しんでくれていることがわかったからだという。そんなことなら、我慢せずにもっと早く小便なり大便なりすればよかったと後悔。なるほど、時代が違えばもてなしの感覚も違うのだろうな。


ただ、この宴で気になっていたのはカンチュマリと2人のお付きの彼女たちは、飲み物も食べ物も一切口にしていない。

俺はカンチュマリに勧めたのだが、首を横に振るばかり。

困ったものだ。


さて、だいぶ夜も更けてきたので、寝に戻りたいが、そこで、カンチュマリにいくつか料理を夜食として持っていくことはできるか聞いてみた。

どうやら大丈夫なようだったので、料理の一部を分けてもらった。案の定、俺一人で食べられる量ではない。

まぁ最初から俺が食べるつもりではなかったんだけど。

俺はカンチュマリに中座は可能か聞いてみた。中座することで祭りが終わってしまうことはないようだ、神降ろしの祭りは俺の出席いかんにかかわらず今日から3日間開かれるらしい。なので、頃合いを見て寝所に戻ることにした。

寝所は俺が目を覚ました塔の上のあの部屋らしい。

カンチュマリは同じ部屋で、お付きの2人も塔のひとつ下の階で寝るのだそうだ。


俺は神輿に乗って先ほどの夏の地の宮に送り届けられた。先ほどよりは少なくなっているが神輿の後ろには夜食用の料理屋の飲み物が続いている。

地の宮につくと料理を持ってきた女たちは宮から塔へ続くスロープの前に料理を並べ始めた。これより先は神と巫女とそのお付きの2人以外は立ち入ることができないらしい。カンチュマリとお付きの二人は料理を持つと俺の後ろを歩き始めた。俺も持とうとしたが断られた。周りの眼もあるだろうから、大人しくそれに従って前を歩いて塔に戻った。

お付きの2人が何往復かして料理を塔の部屋に運び込んだ。


お付きの2人が最後の料理を運び終わって外に出ようとしたところで、カンチュマリに言って部屋にとどまるように言った。俺はカンチュマリとお付きの2人に食べるように言った。それでもなかなか食べようとしない。俺はカンチュマリに2人の名前を聞いた。

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