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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
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葡萄の蔓

地震があったが、この時期では最も大事な集落総出の採集イベントがある。

自然暦では春の生命の日。


この僅かな期間を逃すと、他の季節では作ることができなくなる大事な素材。

山葡萄の樹皮の採集。

籠編みなどでもっとも需要のある素材だ。


山葡萄が新芽をつけて、最も水を吸い上げる時期、雨の降る新緑の季節、僅か1週間もない間に、山葡萄の蔓を皆で引っ張ったり木に登って外したりして、地面に引きずりおろす、石器で表面を傷つけて力いっぱい樹皮を引きはがしていく。この時期以外では、簡単に樹皮を剥がすことができないし、無理に樹皮を剥がしても質が低下する。


限られた季節にしか取ることができないレア素材だということを知ってか知らずか、現世の東京あたりのデパートでは葡萄鶴の籠が20万円を超えるような値段でも飛ぶように売れていたのを思い出す。

実は俺もその取引される値段につられて、山葡萄の樹皮の採取と籠編みにチャレンジしたことはある。ただ、個人が思い付きでやるには、体力も時間もめちゃくちゃかかる重労働だった。

なるほど、蔓の収穫、樹皮を剥がす作業とか集落総出でやれは、限られた期間でもそこそこの収量が得られる。樹皮さえ取ってしまえは、あとの籠編みはゆっくりと個人でもできるのだ。


しとしと雨が降る森の中、何人かで山葡萄の蔓を見つけては木に登って蔓を引きずりおろしたり、途中で石器を使って切断したり。俺も現世でやったことがあるので、木に登ってその作業をやっていた。


ガツガツと石器で葡萄蔓を叩いて切り落とす。ふらふら動く葡萄蔓は石斧だとなかなか切れづらいので、黒曜石のナイフで切ろうとする。現世のナイフの切れ味とは違うし、まして鋸のような便利なものもない。だから、勢いでむりやり叩ききるようにしていたのだ。


山葡萄の蔓が切れ落ちる瞬間。


やってしまった。と思ったときにはぐさりと黒曜石のナイフが左手に突き刺さってしまった。慌てて右手で左腕を強く握る。黒曜石のナイフは突き刺さったままだ。僅かに血がにじんでいる。なぜか痛みは見た目ほど感じない。

頭に被っていた布をとって、左腕に巻き付ける。

抜いたら血がいっぱい出るだろうな。

そう思いながら、おそるおそるナイフを抜いた。

抜く際にチリチリとした痛みを感じるが、この時も見た目ほどの痛みは感じない。ナイフには血がべっとりとついているが、まだ傷口からは血が出てこない。

ナイフを完全に抜いた。腕の傷口は一瞬でかさぶたのようなものができて、見ているうちにそれがハラハラはがれて、古傷のような模様になり、1分も経たないうちに傷の跡すら残っていなかった。

ナイフを見ると真っ黒い血の塊が付いていて、これも乾燥してサラサラとナイフから剥がれ落ちていくところだった。


考えがめぐった。

不老不死なのか?

現実の世界じゃありえない。

やっぱり異世界なのかもしれない。

でも、ここで皆にそれを言っても何の意味もない。

それに、まだ不老不死と確定したわけじゃない。

いろいろ樹上で考えているうちに、木下から声をかけられた。


「オホシリカム様、そろそろ戻りますよ」


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