地震
すぐに半島の塔の集落からは安否確認の使者がきた。あちらも揺れたが、土器などの被害はほとんどなかったという。津波も起きなかったという。
西の深緑の王国の状況はすぐにわかった。塔の被害は無し。津波もなかったという。ただ、東は揺れが激しかったのか、火山のこともあり動揺しているのか、こちらへの人の動きはなく情報はつかめないとのこと。
クルマンタ方面の情報は、ここ2日以内に入ってくるだろうとのことだ。
情報の入る速度は、距離だけで決まるものではない。途中の集落の数も関係する。情報共有のために途中の集落で長老や呪術師に情報を伝えていくので、当然、途中の集落数が多ければ情報の伝わる速度が遅くなる。それでも、伝聞でないだけましだ。伝聞の伝言ゲームをすると、こういう災害はどんな尾ひれがつくかわからない。
夕方、アシリ・ウパシが塔のほうに走ってきた。
アシリ・ウパシ「オホシリ様、クルマンタの呪術師カント・ヨミ・クル様がいらっしゃいました」
おぉ、一番情報が欲しかった人がわざわざ来てくれた。
急いで塔を降りる。
俺「遠いところ、しかもあれだけの地震の後によく来てくれました。」
カント・ヨミ・クル「オホシリ様が私の情報を一番欲しがっておいでかと思い、途中に寄らずまっすぐこちらに来ました。」
俺「それで、例のものはどうなりました?」
カント・ヨミ・クル「ほんと偶然でしたが、倒れる瞬間を見ました。ほとんどが神々の沸き立つ湖、正確にはトワリの方向に一瞬で倒れました。ただ、その後の揺れが激しすぎて、ばらばらになってしまいましたが、それでも、私の眼でしっかりと、予想された方向に倒れるのを見ました。」
カント・ヨミ・クルは興奮しながら話した。俺はカント・ヨミ・クルを俺が設置した土器のところに案内した。
俺「こちらは、半数以上が神々の沸き立つ湖の向きに倒れました。そちらの情報と合わせると震央はほぼ十和田湖と思われますね。」
カント・ヨミ・クル「すばらしいです。これで、地震がどこで起きたのかわかるのですね。」
俺「いや、地震の揺れのタイプによってはまったくばらばらに倒れたり、大地の性質によっては倒れる向きも変わってしまう。今回は偶然だし、この方法で地震の起きる場所を知るためには、同じ装置をもっとたくさん、広範囲に置かないと意味がない。」
カント・ヨミ・クル「かなり近いですか?」
俺「あぁ、これで100年とかの余裕はなくなった気がする。早くて1か月位以内、遅くても1年から2年というところかもしれない。噴火の前に地震が頻発するだろうから、そうなったらクルマンタの集落ごと避難したほうがいいと思う。」
カント・ヨミ・クル「では、すぐに戻ります」
俺「わざわざこのために?」
カント・ヨミ・クル「はい、オホシリカム様には何としてもお伝えしておきたいと思いまして」
俺「少し休んでいかないか?」
カント・ヨミ・クル「いえ、呪術師や集落のものにはこちらまで行くとは言ってませんので。」
俺「無理するなよ。特に神々の沸き立つ湖の直接の観測はやめておけよ。」
カント・ヨミ・クル「はい、それは必ず。」
そう言って、すぐに戻ろうとしたが、俺だけでなく、アシリ・ウパシももう日が暮れるので泊まって明日の出発にするよう強く押しとどめた。
それよりも、秘匿しているはずの神がカント・ヨミ・クルにばれているような気がする。




