神の嫁
集落の結婚についてそれとなく聞いてみる。結婚という制度や儀式自体はないらしい。だが、家族はある。で、一夫一婦制なのか一妻多夫制なのか一夫多妻制なのかの疑問があるが、基本的に全部ありのようだ。ただし、一妻多夫、一夫多妻は生産余剰のある家族に限られるし、生産余剰があると自然とそこは夫が多くなったり、妻が多くなったりする。つまり集落の家族の一人当たりの資産?生産性?収入?なんといったらいいのだろう?いずれ簡単に言ってしまうと富めるところに人が多く集まり、それを養うために結果的には集落の個人の収入が平板化されるようなのだ。だから食糧管理の女性、つまり立場が上で富める女性には旦那が2人いるし、夫婦二人で小さなな子供がたくさんいて最初は大変でも、子供が成長して生産性が上がると2人目の奥さんや旦那さんが家に入る場合もある、そして、そのぶん成長した子供が別の家族に嫁いだり婿に行ったり。基本的に助け合いの精神で成り立つのがこの時代のここの集落のようで、結婚とか家族という括りも助け合いという意味合いが強い。だから、旦那が死んでも旦那の弟が家族に入ったりもする。面白いのは血の繋がった近親同士の家族もあるが、子供は別の人との間に作るらしい。たとえば子供のいない兄弟姉妹の家庭もあるが、そこの子供は、片親は別の人であることもあるという。そういうことなので養子縁組のような感じも多い。いずれ、特定の個人だけが富んだり貧乏にならないようにした、最小グループが家族という定義のようだ。
で、俺はどういうことか?
どうやら呪術師、長老格、前の巫女によって、塔の巫女3人と神との4人を1グループ、つまり家族にするということになったらしい。そうすることで、塔の管理費?巫女たちの食糧、衣料のプラス1人分で済むし、塔の維持管理費は神が増えても変わらないから負担は少ないと判断したのだ。まぁ俺を呼ぶ儀式のための、生産を中断したり、貴重な南の土器を取り寄せたり大きな負担をしたわけだから多少の効率化はしょうがないのだが。
それと、神があとから家族を持ちたいとか言い始めると集落の秩序が崩れると考えたのかもしれない。その点、巫女なら問題ないとか。そこらへんは俺の勝手な予想だが。
で、結婚とか家族のあり様についてはなんとなくわかった。だが、それはそれ、これはこれ、カンチュマリとレブンノンノになんて伝えよう。そして、神嫁のことも確認しないといけない。
塔に登るスロープで考えながら歩くが、なかなかどう言い出してよいか思いつかない。考えているうちに塔の3階の部屋の前までついてしまった。
あれ?部屋の中から賑やかな話し声が聞こえる。
中に入るとアシリ・クル(新しい)とカンチュマリ、レブンノンノが楽しそうに話をしている。入ってきた俺に気が付いて、3人ともこちらを向いて平伏して出迎える。
俺「あれ?アシリ・クルがいる。どうしたの?」
わざと知らなかった風に言ったが。
カンチュマリ「アシリクルも今日から塔の巫女になりました。また3人でオホシリカム様のお世話をいたします。」
俺「うん」
カンチュマリにアシリクルのことを話す手間は省けたが、一番大事な神嫁のことが残っている。アシリクルは本人もそれを望んでのことだし、神嫁になると決めたのは俺に会ってからのこと。いつ頃そう思い始めたかはわからないけど。
ただ、カンチュマリとレブンノンノは俺が神降ろしでここに現れる前から神嫁としての使命も与えられていた。やはり意思確認するべきだろう。
そして、自分の気持ちだ。
正直3人とも、というかレブンノンノはかわいらしい女性。カンチュマリはステキなお姉さん、アシリクルはかっこいいお姉さん的でそれぞれ異なる魅力がある。誰か一人と選ぶことのできない魅力のある女性たちだが、現世を生きた俺には、そこが背徳的だと思ってしまう。でも、心の中に、それでいいってみんな言ってるからいいんじゃないの?という俺もいる。誰かを「君が一番」って言いたい気持ちが無いわけでもないが、今の状態は「3人とも一番大好き」ってことだ。
カンチュマリ「今日はアシリクルさんがこちらに入ることになったのでお父様のアシリ・ウパシさんからいろいろ頂きました。皆でいただこうと調理していたところです。」
俺「あぁ、ところで神嫁のことだけど、みんな俺でかまわないの?」
カンチュマリ「3人ともそのつもりでここにいるんですよ。そんなことより、早く夕餉の支度をしますのでもう少しお待ちくださいね」
3人とも平伏したまま一度頭を床につけるくらいまで下げたかと思うと、立ち上がって事前に分担が済んでいたのかそれぞれに夕食の準備をはじめた。
俺はそれ以上聞けなくなってしまった。




