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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
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32.キノコの季節がはじまった

キノコの季節がやってくる。


たぶん8月の終わりか9月のはじまりかの季節だ。

もう、何月何日か覚えていない。


4期の暦は正確のようだから、1期の春分からはじまって夏至、秋分、冬至のときで正確な月がわかる。あとは現世の時のように正確な約束事とかあるわけじゃないし、ここの習慣にあわせて問題ないだろう。


それでも、ここにきてからの年数だけは忘れまいと、塔の柱に傷を刻んでおこうと思う。夏至に来たから次の夏至に1本目の傷を刻もう。あと火事とかで失うのも恐いので、目立つところに小石を置くことに。ただ、これは後に集落民も真似して小石を置いてしまうようになったので意味がなくなってしまうのだが。


俺の楽しみの季節だ。現世にいたころも、キノコ採りは大好きだった。もちろん食べるのも。

縄文時代ならいっぱい取れるだろうと期待していたが、そこはやっぱり狩猟採集の時代、競争率が激しいようだ。だが負けてはいられない。


南八甲田の上のほうは十和田湖の噴火の影響が考えられるので、今年はその方面の泊りがけの狩猟採集は禁止した。狩猟や採集しながらその日に歩いて帰られる範囲なら大丈夫だろうという判断だ。それに、その方面を全面禁止してしまうと塔の集落の優先狩猟採集場はほとんどなくなってしまう。


夏の釣り以来、アシリクル(新しい人)と出かけることが増えた。彼女は狩猟の腕前もたつというが、最近男と混じっての集団ではなかなか息の合った狩猟ができなくなっているという。なので、大型の獣の猟ではなくて、1人で猟のできるタヌキ、ウサギ、アナグマなど中、小型の獣を専門に狙っている。1人で出歩こうとする俺の護衛も兼て一緒に出掛けることが増えたようだ。


キノコ採り用の山葡萄籠の背負子も新調してもらった。

キノコの最初のシーズンなので採れる種類は限られている。

だが、しかし!!

最低でも俺のもっとも好物の2種類のキノコが採れるはず。

いや、絶対、縄文人には負けない。


雨上がりの早朝、アシリクルと出かける。

まずは真っ赤なキノコ。

タマゴタケを探す。

標高1000メートルくらいにくると白樺の木が多かったことを十和田湖の調査の時に覚えていた。

たぶんあそこなら。

「あった!!」

タマゴタケがいっぱい出てきている。しかも子実体から幼菌になりかけの笠を広げようと白い殻を破りかけている取りごろ食べごろがたくさんある。

アシリクルは不思議そうに見ている。

「それ食えるの?」

意外な言葉を投げかけられた。

ヨーロッパではタマゴタケはキノコの王様、キノコの皇帝は言わずとも知れたポルチーニだが。

縄文人はタマゴタケを食わない?

たまたまアシリクルが知らないだけか?


「これは俺が知っているキノコの中では唯一生食ができるキノコでうまい!!」

そういって、まだ笠が開ききらないタマゴタケの幼菌の白い外被膜をとって口に入れる。ポリポリとした食感でキノコとは思えない味覚だ。ナッツにも似た感じだが、いずれ現世の頃はサラダによく入れて食べたものだ。

もちろんスープにしてもうまい。あぁクリームパスタに入れてもうまかったなー。


「これも食えるのか?」

アシリクルの手に取ったのはテングタケだ。


「それはダメ」

どうやら、テングタケの仲間の見分けはできないらしい。

「まずは色、この鮮やかな赤。そして、鮮やかな赤いものでも、白いツブツブがあるものは毒だ。白い卵のような状態はうまいが、この卵の殻のような皮膜で中身が見えない。中が赤くても白いツブツブがあるのはダメだし、一番怖いのは中も白いやつだ、猛毒だ。一発で黄泉の国へ行く。だから、もったいないが白い卵状態のは諦めてとらないでおく」

そう言って白い外被膜を破って赤い笠の頭を出したばかりぐらいのタマゴタケをとって、これが取りごろ食べごろと教えた。

無理に卵状の子実体まで取らなくてもいいだろう。毒キノコが混じったら大変だし。

彼ら縄文人が食べないということは、どうせたくさんあるだろう。

これは運がいい。

たくさんのタマゴタケが取れた。アシリクルも手伝ってくれた。見分けはすぐにわかって、一応彼女の取ったぶんも一個一個確認したが毒キノコは混じっていなかった。


場所を変えてもう一種類のキノコを探す。

これはタマゴタケより確率が低いが、一個が大きいことが多いので、一つ見つけるとその日の料理に使う分には十分な場合がある。

アカヤマドリという。

こちらはヨーロッパのキノコの皇帝ポルチーニにもっとも近い味のキノコ。ポルチーニとは同じヤマドリタケの仲間だが、大きさもこちらがひとまわりでかいし、味に関しては全く同じといっていいほどだ。

このキノコは針葉樹も含む混成林にはえることが多く、どの木に生えるという特定が難しい。ぼこんといきなり地面から出ている。

ただ大きいので見つけるのは簡単なはずだが。


なかなか見つけられない。これはさすがにダメかな?と思ったとき。

アシリクルが大きなト・カルシ(土キノコ)を見つけたと言っている。

何かと思って行ってみるとアカヤマドリだった。

ト・カルシはどうやら土キノコの意味らしい。食べないわけじゃないが、彼らは特定の木から出てくるキノコを重用し〇〇カルシ(〇〇の木のキノコ)という言い方をする。だから、同じシイタケでもコナラから出てくるものとミズナラから出てくるものとは名前が違っているが、どちらも重要な食料ととらえている。

ちょうど食べごろのアカヤマドリだった。

アカヤマドリは現世でいうとメロンパンのような形のキノコだ。キツネ色に焦げたメロンパンに柄が付いていると思うとわかりやすい。裏側はきれいな黄色から黄緑色。笠の部分だけでなく柄も食べられ、異なる食感を楽しめる。

これは、タマゴタケと違い縄文人も食べるらしいがメインのキノコ食材ではないようだ。


そのあと何個か見つけることができた。

俺としては十分とれたので、集落に戻る。

アシリクルのほうは俺のキノコ採りを手伝ったので狩猟の収穫はゼロだった。

キノコ料理でも振舞ってやろうと思う。


集落に戻るとカンチュマリが待っていた。なぜか塩漬け用の土器を用意して。

話を聞いて愕然とした。

そしてタマゴタケをとらない理由もわかった。

なぜなら、縄文人たちはキノコのほとんどを塩漬けにするか干して保存食にしてから食べるのだ。そうなると、干しても塩漬けにしてもボロボロ粉々になるタマゴタケは使えないのだ。子実体なら塩漬けにできるかもしれないが、毒キノコが混じる危険が高まる。アカヤマドリは塩漬けでもかろうじて使えるが、たぶん味的にナラタケやその他のキノコに劣るかもしれない。


この時期、彼らの取る一番の目的のキノコはペロカルシ(ナラの木に生えるキノコ)であり、シイタケは干物、一部塩漬け、ナラタケ(ボリボリ)は全て塩漬けにして保存される。マツタケも塩漬けにされてしまう。


とりあえず、この集落で手に入りやすいエゴマの油をもらって、アカヤマドリは油炒めで、タマゴタケはアシリクルが前に獲ったヤマドリの肉とのスープにして、アシリクル、カンチュマリ、あと塔の2人の巫女のミナ・トマリ(笑う港)とレブン・ノンノ(沖の花)に振舞った。


とりあえず、美味しそうに食べてくれたが、けっこう自信を無くした。

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