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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
31/182

31.マイナス4945歳

神々の沸き立つ湖(十和田湖)の火山調査から戻っていろいろ対策のために動き出した。


最初の集会で話したほかに、土器の強度を上げたり、土器の無駄な装飾を減らして使う薪の量を減らすようにした。土器の強度を上げる方法はすでに確立していたが、あえて弱い土器を大量に使うのが豊かさの指標のひとつだったので大量に生産されて無駄に廃棄されるものも多かった。

確かに、現世で資料館などに展示してある、土偶や一部の土器は古い時代にもかかわらず薄く丈夫に作られているものもあったのに、一般的な土器は厚くて焼きしめられていない弱いものが多い印象だった。登り窯等がないのも、頑丈な土器をわずかしか作れない原因かと思ったが、そうではなくて単に長年の慣習によるものだとわかったので、少しずつ改めさせることにした。


8月に入ると暑さもピークになる。8月後半になってくるとキノコや木の実の収穫時期がくるので、8月前半は交易人たちは各地に交易に出かけるが、夏で唯一ほっと一息できる季節だ。


巫女のカンチュマリ(天空の狐)とアシリ・クル(新しい人)の3人で釣りに出かけた。前回、十和田湖に向かう途中、塔の集落を出て少し行ったところから釣れそうな渓流が見えたのを思い出して、そこへ行くことにした。一応、塔の集落の狩猟範囲の川なので問題ないそうだ。


俺がいたころの東北のこのぐらいの川ならイワナやヤマメがいてもおかしくないが、温暖な気候が長く続いて、今は徐々に寒冷化が進んでいる。はたして渓流魚はいるのだろうか?


川につくと魚影が走るのが見えた。大丈夫魚はいるようだ。カンチュマリとアシリクルは荷を置くと近くの林で何かを探している。


俺は集落で作ってもらった鹿の角でできた釣り針とミヤマイラクサの繊維の糸を持ってきた。

それと試したいことがあったので直針を1本用意してもらった。まずは直針を試してみる。直針は爪楊枝のようにまっすくな針だ。普通の「し」の字型の針よりも古い時代の針だが、かの太公望ももしかしたらこの針で釣りをしていたのかもしれないという原始の釣り針だ。

ただ、これだけだと不安だったので直針は返しをつけてもらった。釣り用の直針はここ縄文時代でもあるのかと思ったが、どうやら更に古い時代のようで、「し」の字型の普通の釣り針しかなかった。


大きめのミミズを針全体が隠れるようにつける。

釣り竿は適当に切った低灌木だ。

魚がいそうな流れの淀みを狙ってみる。


すぐにアタリがあったが、簡単にバレてしまう。何度かアタリがあったが、カーボン製の釣り竿、ナイロン製の柔軟で細く強い糸、そして細く鋭い金属性の釣り針で慣れていたのでなかなか難しい。

そういえば直針は魚に餌を飲み込ませてしまわないと引っかからないと読んだ気がして、今度はアタリがあっても引き上げずにしばらく放置することにした。


そろそろいいだろうと竿を上げてみると、強烈な引きが竿をしならせる。かなりの大物のようだ。かなり暴れているが針は外れない。成功のようだ。手元に寄せてみると大きなウグイだった。40センチ近くあるのでマルタウグイだろうか。


近くから笹をとってきて鰓に通しておく。

次は針を普通の「し」の字型に付け替えてやってみる。

先ほどと同じポイントに入れてみると、今度はすぐに釣れた。大きさは先ほどより小さいが30センチぐらいのマルタウグイだ。


狙いはヤマメかイワナなので場所を少し変えて、やや流れのある場所を狙ってみる。竿が短いのと曲がっているのでなかなか狙いのポイントに入れることができないが、なんとか流れに乗せることができた。


ウグイとは違い繊細なアタリがあった。一発で合わせに成功した。返しのない針なので、暴れさせる隙を与えずに一気に水面から引き抜くように釣り上げる。勢いあまって途中で針がはずれて魚は後ろの陸のほうに投げ飛ばされる。あわてて、走って魚を確認すると20センチは無いかもしれないがヤマメだった。これはけっこう嬉しい釣果だ。


その後、あまり大きくはないがヤマメを5尾ほど釣ることができた。昼近い時間なのに簡単に釣れるということはかなり魚影が濃いか、警戒心が薄いのだろう。


そうこうしていると、後ろにカンチュマリとアシリクルが戻ってきていた。

何種類かの植物の樹皮のようなものを抱えている。

アシリクル「エツゥレタラ(ウグイ)とイチャンカ(ヤマメ)ですね。」

アシリクルは河原の大きめの石に取ってきた樹皮を置いて、河原の石でたたきはじめた。

「少しだけ取るから簡単に作る」


おそらく川焼き、つまり毒流し、毒もみといわれる漁法だろう。なんとなく樹皮を潰すとあの匂いがしてきた。そう山椒の木なのかもしれない。毒流しというと無粋な印象を受けるが、山椒による毒は魚にとって麻痺毒で量にもよるが致死性は低いはずだ。こればかりは実際に見たことはなかったので、観察することにした。


樹皮を潰し終えると、上流側の流れが少しまとまっているところで樹皮を川につけて成分が川の水に溶けるようにゆすっている。

しばらくすると、すぐ下の淀みの中で銀色に魚がもがいているのが見える。先に小さめの魚が浮いてくるが、彼女たちはそれを取ってはポンポンと毒のない上流側や流れの端の毒の少ないほうに投げている。やがて、すぐに大きめの魚が浮いてきて、こちらもまだ毒の効きが弱いのか動きがあるが、器用に捕まえて今度は陸のほうに投げている。さらに大きな魚はどこかに逃げてしまったのか、毒の効きが弱いのか、20センチ前後の大きさのイチャンカ(ヤマメ)が多く取れた。


アシリクル「やっぱり弱かったか?エツゥレタラ(ウグイ)の大きな奴は底にいるし効かなかったかな」


話を聞くと全部取りきってしまうことはないようだ。毒の効き目は集落で灰汁とかできちんとやれば強い麻痺毒で毒流しができるけど、それをやるとしばらく魚が戻らないから、普通はこの方法でやると言っていた。

しばらくすると、さっきまで流れの端でもがいていた小魚はいなくなっていた。


特にこの時期は保存用ではなくてすぐに食べるので無駄に多くとることはしないという。採れた魚のうち2尾づつは今焼いて食べてしまうことにした。エツゥレタラ(ウグイ)は正直、焼いても美味しいとは思えないので、内臓をとって集落に持って帰ってから調理することにした。まぁ塩味のスープぐらいにしかならないのだろうけど。


河原でヤマメを焼いて食べる。

何年ぶりだろう?

俺が子供のころはよく近くの川に行ってヤマメやイワナを釣って友達どうしで焼いて食べたりしていた。もちろん、学校の校則やら何やらで禁止されてはいたが、そんなのお構いなしでやっていた。毒流しではないが、川の流れを変えて魚を捕まえたり、子供のころの楽しかった思い出がよみがえって笑みがこぼれる。


カンチュマリ「何か良いことがありましたか?」

あぁ、思い出した。今の俺の外見は15歳ぐらいだった。

「いや、なんとなくいろいろ思い出しただけだ。」


アシリクル「神様ってホントは何歳なんだろうね?」

そうだよな。ホントは40歳、見た目は15歳。


鏡のない世界。15歳の見た目に気が付いても、その後すっかり忘れていた気がする。アシリクルのほうがずっとお姉さんだ。それにもかかわらず、長老たち(長老といっても意外と若い30代後半ぐらいか?)に物怖じせず話をして、指示を出す。ホント神様って不思議な存在なんだろうな。

「何歳に見えるかな?たぶん今の歳は-5000歳+40歳+15歳= -4945歳」適当にそう言って笑った。

ほんと適当だ。

異世界転生なら15歳は15歳だろう。

でも過去の日本ということならマイナス4945歳はあながち間違った数字じゃないはず。

彼女たちは当然マイナスって聞いたことがない。首をかしげて不思議そうな顔をしていた。


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