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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
30/182

30.交易路

塔の集落から何人か半島の拠点に向かった。

本来時期は違うがクリやクルミの小さな木を探して集落周辺に移植する仕事や、周辺の整備のために家族ごとの移住だ。噴火に備えて集落の生産力を上げるためだ。さほど遠くないので別れといっても皆寂しさは感じていないようだ。


入れ違いに大鰐温泉付近で出会った、アペルイ・ト(アスファルト)の交易人ウコ・アプカシ(往来する)が集落にやってきた。途中の集落でアスファルト交易が終わって、最後にここに立ち寄った。


ここでは、北海道産の黒曜石などとアスファルトを交換するが、黒曜石は入荷が途絶えているので、かわりに津軽産の錦石、メノウ、毛皮、漆製品、葡萄蔓籠などとアスファルトを交換する。琥珀も交換品だが噴火に備えてできるだけ他のものしてもらう。メノウは人気だが重いので交易人はあまり交換したがらない。本当は軽い琥珀のほうがいいらしいのだが。

アペルイ・トの採掘では葡萄籠が重宝するらしく、それをいくつかと、それに詰め込むように毛皮や漆製品を大量に交換していった。アスファルトは小さい割に貴重品なので、荷物はこの集落に来た時より大きくなっていた。


取引はあらかた終えたが、今晩はウコ・アプカシたちを歓迎して宴を催す。

集落の主だったものが集まっている。


ウコ・アプカシ「黒曜石が入荷しないとこちらとしても今後大変です。なんとかなりませんか」

アヂ・ノ・チプ(黒曜石の船)「北のモシリの道が閉じているのでなんともしがたいですな」


アスファルトと黒曜石は採れる場所は全く違うが、セットで使うことが多い。石鏃、矢じりや槍の先につける黒曜石をアスファルトで接着しながら固定する。もちろん、普通の石で作った石器でもいいのだが、石の接着程度で高級品のアスファルトを使うのはもったいない感覚があるようだ。どうせ使うなら高級品同士、つまり黒曜石の矢じりの接着にアスファルトを使いたいのだ。まぁアスファルトはそれ以外の接着用途もあるし、性能は落ちるけど黒曜石以外の石器でも使える。黒曜石が入荷しないからといって即価値が下がるわけではない。

アスファルトは密閉した小型の土器に保存される。使うたびに取り出し、欠片を熱して柔らかくして接着に使用する。


今回は向こうから交易に来たが、こちらから行くこともある。往来による交換レートの差はあるのだろうかと気になったが、交易系の集落同士ではあまりないらしい。こちらか行っても、今回のように訪問してきた場合でも交換割合は同じだそうだ。

当然のことだが全体的な入荷や生産量の変化で交換割合が変化する。ただ、本当に、たとえば今回のように黒曜石の入荷ルートが閉じているかどうか?嘘を言っていないか?それは交易集落同士ならすぐわかってしまうことなので信頼して取引ができるのだそうだ。そのために、交易人は取引の有無にかかわらず、交易路中の大半の集落を巡って情報収集も行う。彼らからの情報、そしてこちらも交易に行く際には同様に情報収集しながら向かい、品物だけでなく情報の交換も行うのだ。物品よりもむしろその情報のほうが重要なのかもしれない。


ウコ・アプカシ「東のルートはアッピより南は閉じました。アッピに行かずマプチの川を下り海までのルートしか生きていません。」

現世の八戸自動車道や国道4号線に近いルートだろう。


ミツ・ソ・ピ・ヒ(緑青の石の翁)「せっかく火の川の流れが止まり西の海ルートが再開したばかりだというのに」

どうやら現世でいうところの鳥海山の噴火は落ち着いたようだ。しかし、俺の故郷に近い岩手へのルートは閉じられたようだ。


ウコ・アプカシ「アッピの先の大きな山で山そのものが崩れ落ちるという大きな災いが起きたようで、いくつかの集落も壊滅したそうです。」


岩手県の岩手山で山体崩壊でも起きたのだろうか。

故郷に近いだけにすぐに行きたいが、十和田の噴火の危機をひかえて、彼らをおいて長期の留守にするわけにはいかない。諦めるしかない。


ウルシ・アチャ「マプチの交易路は生きているのですね。」

ウコ・アプカシ「はい、南ルートが閉じたせいもありますが、神々の沸き立つ湖の影響もあり、前にもまして往来が増えました。」

十和田湖が噴火するとそのルートも影響受けそうだが。


ウコ・アプカシ「以前にもお話したピナイからの新しいルートですが、険しいながらもほぼ問題なく通れるようになりました。原初の神の湖へも問題なく抜けられます。」

ミツ・ソ・ピ・ヒ「山ルートではあるが火の山の近くを通らずに南に抜けられる。投資したかいがあったというものだ。」

投資?この時代そんなものがあるのか?


話を聞くと、ピナイ(秋田県比内)から田沢湖に抜けるルートを作ったのだそうだが、作ったといっても、文字通りの作るとは少し意味合いが違う。

もともと小さな集落や猟師たちの家があって、それを繋ぐ道があって全て繋がってはいたけど、よそ者が勝手に入る地域ではなかったのだ。

それをその集落ごとの需要や供給の情報を収集して、交易人として誰でも通過できるように取引を繰り返して信用得てきたのだ。むろん、塔の集落だけでできることではないので、周辺の交易系集落が共同して誰でも通れる道、それまで山間集落の私道だったものを公道として使えるようにしたことを、俺の翻訳機能は投資と訳したようだ。


これができると秋田県の県央の横手盆地を南下し、湯沢から峠を越えると山形に抜けられる。火の山といわれる鳥海山を回避できる山側のメインルートと最短で繋がるのだ。

縄文時代の東北は火の世界。火山が繰り返し噴火してそのたびに人々の生活は翻弄される。そんな中でも、対策を考えているのだ。


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