表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
3/182

3.こちらにきて最初の夕食

縄文時代、前期から中期にかけて食材の種類も多く、大きさ量も豊富だったことがうかがえる。時代が新しくになるにつれ、食材は貝中心に種類も少なくなる傾向がある。

季節が夏至なら、今度見る方角は南だろう。おれは日が沈みかけて尚も夏至の日特有の明るいそらに黒く見える山並みを見て驚愕した。


八甲田山だ。


しかも山の頂からは噴煙が、それだけじゃない、その奥にもっと大きな噴煙が見える。


本当にここが俺が知っている縄文時代の日本なら、八甲田山が見えるということは三内丸山遺跡かその近くだ。ただ、三内丸山から八甲田は見えたかな?手前に小さな丘陵があったような気がするが。前に見に行った時にもっとちゃんと見ておけばよかった後悔。


しかし、まずい。非常にまずい。


縄文時代は火山噴火、大地震、津波、もちろん時代範囲が長いから人の一生で、そんな次々とまでは襲い掛かってこないと思うけど、十和田湖が大噴火するのは6000年前ぐらい。


ここはどっちだ?

噴火後?噴火前?

前者ならまだましだが、後者なら・・・。


俺は片膝をついてしゃがみ込んでしまった。

ふと、塔の下に目をやると、そこには平伏している大勢の人々。


改めて見渡すとそこには先ほど見てきた建物とは全く違う巨大な建物が建っていて、小さな建物群も数多く一つの町といっていいほどの集落だった。


はやりここは三内丸山の辺りなのだろう。いや、三内丸山そのもの、いやそれ以上の町だ。青森の三内丸山公園で見た復元建物が少し縄文時代の技術水準を下に見ていたというのがはっきりわかるほど洗練された建物、町の配置だった。


もう少しで夕闇が迫ろうとしている。


俺は慌てて、横に相変らず深く低頭したままの女性に皆の平伏を解き普通に動くよう伝えるように促した。


女性は「神は皆の歓迎を快く思われている。普段どおりにしてかまわないと仰せだ」


背筋を伸ばして大きな声で伝えたようだった。

俺はここへ連れてこられたことを、快くとは思っていないのだが・・・。


でも、皆に声をかけた女性、やっと彼女の顔を見ることができたが、色の白い美しい少女だったので、いやな気持にはならず、思わず笑みがこぼれてしまった。

ふと少女はこちらを見て慌てて再び深く低頭した。


「今日は皆で夕餉の支度をしました。どうぞこちらへ。」


東側に行くと長大なスロープがくねくねと南の方角へ伸びていて、何棟かある高さが人の背丈ほどの高床式倉庫?というより高床式ログハウスのようなもののうちのひとつに繋がっている。そこへ少女に連れられて向かった。


少女「夏の地の宮です」


中に入ると大きな土器の上に薪がくべられて灯となっている中に、大小さまざまな土器に飾り付けられた料理が並んでいる。


部屋の奥には円いわら座布団のようなものが1枚だけ置かれていた。コメはまだ入っていないはずだから藁ではないはずだが。


少女「どうぞ我々の捧げものをお受け取りください」


俺は中央のそのわら座布団の上に胡坐をかいて座った。

少女は正面に平伏したままだった。


困った。縄文時代の作法なんかしらないけどな。

箸は見当たらない。


いくつかの土器の前には、中には匙のようなものが付いているのもあるけど、ほかは手づかみのようだ。

大きな鯛のような魚も用意されている。

しかし、多くは貝類と思われるものを焼いたり蒸したりしたもののようだ。

俺はアサリを大きくしたなものを蒸したものを手で取って食べた。

たぶんハマグリだ。が現代では北東北ではほとんど採れないはずだ。

なかなかに美味しい。というより新鮮な素材そのものの味だ。

他にはクルミ、あとはタケノコや山菜もある。基本的に塩味の煮たり焼いたり蒸したりの至ってシンプルな味付け。


円筒型の土器には、いくつか飲み物らしきものが入っている。

まぁ神だと思われているから変なものは出してないだろう。

とりあえず、いろいろ少しずつ食べたり飲んだりしてみる。

なかなかに美味しかったのは何かわからないけど赤い色の果実酒だ、かなり度数は高そうだが、さわやかな酸味が心地よかった。


しかし、少女は平伏したまだ。

歓迎という割に、俺一人での食事はつまらない。


俺「この食事を用意した皆はどうしているのですか?」


少女「神様がお食事を楽しまれるよう祈っております。」


俺「あなたや皆は食べないのですか?」


少女「神様のお食事の終えた後でその下り物とともにいただきます。」


どうりで、俺一人には多い量だ。


俺は決めた。どこまでできるかわからないが、神として呼ばれたなら、覚悟を決めて彼らの神になってやろうと。

そう、十和田湖の噴火も心配だし、縄文時代の危機はおおざっぱだけど俺の趣味で多少は調べて知っている。

そんな俺が呼ばれたのも何かの縁だろう。でも、ここが異世界なのか?パラレルワールドなのか?過去の日本か?はわからない。

技術チートは控えたほうがいいだろう。文字や口伝の史料は残っていない時代だから、十和田の噴火など多少は予言ということで被害の縮小はできるかもしれない。


俺「神として皆のことをもっとよく知りたい。皆は畏れるかもしれないが、その必要はない。少なくとも今後、この一族や周囲を知る人たちとは打ち解けて食事を楽しみながら話をしたと思う。しかし、今日は違う。皆がせっかく歓迎のために用意してくれた供物を私だけで楽しんでもつまらない。皆はどこにいるのだ?」


少女「皆は大堂にて祈りを捧げています。」


俺「では今から皆のところへ行く。これらの食事もそちらに運ぶように。」


俺「それと、君の名前を教えて欲しい。これから君がいろいろ教えてくれるのだろう?」


俺は40歳と思い込んでいたのが間違いだったが、覚悟が決まったとたん少女を「君」なんて呼んでしまったのは、明日後悔することになるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ