24.観測結果
いろいろ観測結果が気になる。
「火山については後で話をしたいが、その前に4期の暦と自然暦のずれについて話を聞かせて欲しい。具体的にはどういったずれがある?まぁ20年の観測でははっきりとしたことは言えないと思うが」
カント・ヨミ・クル(天を読む人)はちょっとびっくりしたような顔をしたが話し始めた。
「先代はその前の呪術師達から年々寒くなってきているという話を聞き、さらにトワリの北の神々の沸き立つ湖の火山の様子も変わってきたこともあって、このクルマンタを拓きました。ですからまだ我々の間だけの1年365日という仮説でしたが、それをクルマンタの山裾に刻み、そのすぐ外側に自然暦を重ねて記録するようにしました。すると秋の生命の日(山葡萄の収穫日)が早くおとずれるようになり3期のはじまり(秋分)に近づいてきていることがわかったのです。またカタクリの花の日は1期のはじまり(春分)に近いほうでしたが徐々に離れて遅くなっています。」
「全体に冬の期間が長くなっているということですか?」
カント・ヨミ・クル「それだけではありません。雨の降る日数が減っています。ただ、寒さは厳しくなっているのですが、雪の量にあまり変化がありません。にもかかわらず雪解けは遅くなっているのです。次々気になる項目ができて、すでに山裾も足りなくなり、なにより呪術師の数も足りないのですが・・・集落の人たちはこれの重要さをわからなくて・・・。そのくせ、今年の自然暦がハズレたと文句を言うのです。」
カント・ヨミ・クルはがっかりしたようにうなだれた。
やはり氷河期?寒冷化に向かっているのだろう。問題はどこまで冷えるか?そしてその速度は?
「気温については今よりさらに下がっていくと思う。ただ、悪いことばかりでもないはずだ、寒いなりに寒冷な土地で育つ動植物が来るし、代わりに温暖な土地で育ってきたものが去るだろう。そこに柔軟に対応できるかが大切だ。集落の人のその様子じゃ少し難しいかな?」
カント・ヨミ・クルは苦笑いをしている。
「さて、今回の俺たちの旅の目的でもあった火山のことだけど」
カント・ヨミ・クル「やはり火の神の怒りは大きなものが起きますか?」
「あぁ、今世の人の経験したことがないくらいの規模で起きる。具体的には神々の沸き立つ湖の中にあるあの火山がすべて吹き飛んで、そこにもう一つ湖ができるくらいだ。」
カント・ヨミ・クル「いつでしょうか?」
「いつ起きてもおかしくない状況だと思う。今すぐ起きるか100年後起きるかはわからないが、必ず起きる」
カント・ヨミ・クル「ではトワリは・・・」
「トワリにはまだ人がいるのか?」
今でも小規模ながらすぐそばで噴火を繰り返す場所に人がいるのだろうか?念のために聞いてみる。
「いえ、もともとの集落民の大半は先代よりも古い時代に山を下りて平原の集落へ移住しましたが、トワリの呪術師衆は山裾の集落と行き来しながらトワリの山で観測を続けています。最も火山に近い場所で風下なので灰も酷いのですが・・・。トワリの山もここと同じ原初の神が作った聖なる山なのです。原初の神の力を信じて今も時折訪れているようです。それに、私もそうですが、呪術師衆が交代で神々の沸き立つ湖を観測しています。」
トワリの山はたぶん俺の知っている山にあてはめるなら十和利山かもしれない。あの山もオカルト好きにはピラミッドといわれている山だ。ただ、俺が行ったときは熊の出没騒動で登るのを躊躇い、周辺のドライブだけで帰った記憶がある。
「トワリはかなり危険だ。近づかないほうがいいと思うが・・・。それに加えてここも安心とは言えない。噴火すれば灰だけでなく軽石も降ってくるだろう。それに温泉のあったところの川が泥流で氾濫する。もしどうしても観測が必要なら沸き立つ湖の西の端から観測するしかない。しかし、それではここまで知らせるのに時間がかかるだろう。まぁどこで観測しようが噴火すれば、ここに被害が到達する前に知らせるのは不可能だと思うが」
カント・ヨミ・クル「では、烽火や灯火では無理でしょうか?」
「噴火すれば、たちまち空は暗くなり、灰が降り始めれば、烽火も灯火も見えなくなる。」
そもそもこの場所だと噴火してからの避難では間に合わないかもしれない。
カント・ヨミ・クル「安全な場所はないと」
「いや、ここよりも西のほうなら比較的安全だと思う。ただ川沿いの低い場所は避けたほうがいいだろう。事前にその方面の集落につてを作っておいて備蓄などをしておくのをお勧めするが」
やはり事前の避難が重要だが、タイミングは難しい。現世の時のような観測機械もないし。
カント・ヨミ・クル「西のほうの集落とも交友がありますので、そうします。」
「カント・ヨミ・クルよ、もし噴火して、いや噴火しなくても、ここに居づらいようなことがあれば、俺たちのもとに来ればいつでも歓迎する。」
「ありがとうございます。その時はお願いいたします。」




