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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
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23.クロマンタ

クルマンタ(黒き冬)降神台.

俺のいた時代では黒又山もしくはクロマンタとよばれていた。一部のオカルト好きや、とんでも古代史が好きな連中からは古代日本のピラミッドといわれていた。すぐそばに大きなストーンサークルの遺跡があるのも、古代ミステリーの謎を掻き立てる絶好の材料となっていた。

そして、今からその現役の縄文時代の黒又山、そしてストーンサークルを訪れる。


正確には大湯環状列石といわれていたが、俺が知っている通称大湯のストーンサークルは確か作られた時代は4000年前ぐらいだったはず。

そうすると、十和田湖の噴火の後のはずで、噴火前で今は5000年前と予想しているこの時代と合わない。さらに黒又山だ。この存在もしっかりと観察すれば、とんでも事案が具現化する異世界と判断できるかもしれない。ここで、この世界が日本の過去か、異世界か、パラレルワールドかを判断する材料に出会えるかもしれない。


大湯温泉から少し山に入る。少しの間、くねくねとした山道を登る。広葉樹のやや暗い森の山道だがさほど距離はないはずだ。現世では杉林で中世の大湯氏の館跡があるくらいで地形的はほとんど変わりがない。そこを抜けると平坦になり草原やアシやヨシのような背の高い湿地性の植物の生い茂るところに出た。その先に山肌の露出した三角の山が見えた。クルマンタのようだ。現世では杉の木の生い茂るそれこそ黒い森の山といった感じだが、ここで見る黒又山は全く違う様相をしていた。


ピラミッド?いやなんか雰囲気が違う。


山肌はほぼ全部といっていいほど露出している。そこに丸太を使って横に線が描かれていて、それは遠くから見ると階段ピラミッドのように見えなくもない。でも、正確に三角ではないようで少し形はいびつだ。その横に引いた丸太の間には丸太の杭が打たれていて、その周りにストーンサークルのように丸太が放射状であったり、様々な紋様に配置されていた。こちら側はクルマンタの裏側にあたるが、正面側も同じく横の丸太と、その間に杭や様々に配置された丸太が見える。丸太の間は場所によって雑草が生えているが、多くは雑草が抜かれて茶色の山肌が露出している。

カント・ヨミ・クル(天を読む人)にクルマンタについて改めて聞いた。


「クルマンタは盛り土で人が作ったのですか?」


「いえ、神が作られたもともとの山です。」

神が創ったということは盛り土をしてピラミッドを作ったわけじゃないということか。


「神が作ったというのは?」


カント・ヨミ・クル「大地、人その他様々な神様、動物、全てを作った原初の神が最初に作った大地の山です。そういった場所はとても少ないのです。我々の知っている山々の多くは、最初の神が、神々を作った後からできたものです。つまり大地神による隆起した山や火の神の怒りでできる火山、川や海の水の神が大地を削りできる山や谷、風の神が作る山もあるかもしれません。そういった後からできた山に対して、原初の神が神々を作るより前に最初の大地を作ったときから存在する聖なる山のひとつです。」


また世界の秘密に逃げられた感じがした。せめて俺たち呪術師が魔法で作ったとか言ってほしかった。ここは異世界だと諦めたかったが、今回も逃げられるのだろうか。

「では人が作ったものではないのですね。」


「はい、山自体は人が作ったものではありません。ただ、原初の神に今の窮状をお伝えするために、この山に観測結果を刻んでいます。神々を産み、その神々の脅威で我々の存亡の危機にあります。これについてお伺いをたてるために原初の神が作った貴重な聖なる場所を使っています。」


「あの丸太は火山などの観測結果なのですか?」


カント・ヨミ・クル「火山の観測結果は山裾のほうにあります。山肌には主に天体と気象の観測が刻まれています。上層に月の満ち欠けと金星や火星の動き、中層に太陽、そこから派生する下層には4期別に自然の暦を重ねて、年ごとに自然の暦がどのくらいずれるかを観測しています。そして裾のほうに、河川の氾濫、火山の降灰について記録されます。」


かなり大掛かりな施設のようだ。

「呪術師は何人ぐらいいて、もうどのくら観測を続けているのですか?」


カント・ヨミ・クル「呪術師の肩書は3人ですが、他の呪術師の息子と他の集落から見習いで他に3人います。観測は先代の頃からですから、まだ浅い時しか経っていません。神の時をはかりこの観測結果から神の意志をくみ取るまでにはまだまだ先は長いと思っています。」


「ストーンサークルとは違うのですか?」

カント・ヨミ・クル「あれは人の世界を表したものです。なので集落の中にあって、まぁ集落の当事者がわかればいい程度で作ってますし、今のストーンサークルは、ある意味、皆家族どうしで好き勝手に作っている感じです。後々はもう少し整理したいのですが。」


「こちらはわかるように作ってあるということですか?」


カント・ヨミ・クル「どの部分が何を示すのか分かればわかりやすいかと思います。特に上層、中層、下層と丸太でわけてますし、全て関連で繋がるように配置されていますので、説明するのにもわかりやすいです。ストーンサークルですと、あそことかこことか言われても場所の特定から難しいですから。その点、こちらは上層右側とか中層左とか一発で場所がわかりますし。山裾からは天の動きが、山頂からは地の観測結果が見られるようになっています。これも理にかなっています。」


「天体についてはどこまでわかっていますか?」

カント・ヨミ・クル「おおよそ1年は365日と少しというところまではわかり、4期にそれを割り振りして、自然暦のずれの観測を始めたのが先代様で今年で20年になります。」


「石ではなくて木で作っているのは理由が?」

カント・ヨミ・クル「観測結果を刻んだり、動かしたりが容易な点と、何より聖なる山ですから、あくまでも神様に窮状をお伝えするまでの間ということになりますので石は使いません。まぁ少なくとも今後100年ぐらいは続けないと意味はないと思いますが、次代の人たちが続けてくれるかどうか」

そう言って苦笑いをしていた。


見習いの呪術師だろうか、山の斜面で草取りをしたり、他の呪術師の指示で木の杭を打ち込んだりしていた。

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