22.温泉は混浴で
俺がいた現世でいうところの大湯温泉だろうか、川のいたるところからお湯が湧き出してあちこちから湯気が立ち上っている。
縄文時代に温泉に入る習慣はあるのだろうか?
そう思っているとカント・ヨミ・クル(天を読む人)がここで湯浴みをしていこうと提案する。カント・ヨミ・クルは特に火山の近くまで行ったせいか全身火山灰まみれだが、俺たちもかなり火山灰で汚れているし、2日間の山登りで汗もかいている。皆で温泉に入ることにした。
集落の人々だろうか、河原の温泉の湧口から溝を掘って川沿いに何か所か露天風呂のようなものが作ってある。
昨日はここの近くで野宿したので朝のうちに到着したが、すでに集落の人たちもここにきて湯浴みをしたり洗濯をしたりしている。河原の別の泉源付近で洗濯をして、河原の石や木の枝を組んだ物干しに洗濯物をかけてから、露天風呂で湯浴みしたりしているようだ。
露天風呂のような温泉の池は河原に数か所あり、下流のほうはより集落に近いせいか賑わっているが、上流側はあまり人がいなかった。
カント・ヨミ・クルによると、集落に近いほうが便利だし、上流側の露天風呂はクルマンタ降神台の呪術師衆がよく来るので、集落の住民はあまりこないという。
そういえば、俺の故郷からも近い大湯温泉や黒又山、そしてストーンサークルはドライブがてら遊びに来ていたので、その時のことを思い出しながら話を聞く。
現世の時と同じく大湯温泉からすぐに山に入り黒又山経由でストーンサークルまで行く道と、川沿いに少し下ってからストーンサークルのある集落に入る道とがるという。黒又山、彼らの言うところのクルマンタ(黒き冬)のほうの道は呪術師達しか使わないから、自然と上流側の露天風呂が呪術師衆が多く使うようになったという。けっして、集落民が呪術師をおそれているとか、そういうことではないらしい。
俺たちも先に衣服を軽く叩いて埃の落ちるものはそのままに、火山灰や泥の汚れの酷いズボンだけは洗濯してから風呂に入ることにした。ちなみに、俺は集落で着る時用に着替えを持ってきたが、同行の4人はズボンの替えはない。どうするかというと、もともと麻袋のようなデザインでギリギリ下半身は見えない裾丈があるし、夏場集落にいるときズボン自体穿かないことが多いから、ズボンがなくても平気だ。ズボンは山歩きの時だけ笹や藪で怪我をしないように穿いているのだ。
温泉は男女混浴はこの時代当然だよなーと思っていたら、その通りまったく男女とも裸に動じないようだ。
ただ、1人だけかなり恥ずかしがっている少女がいた。アシリ・クル(新しい人)アシリウパシの娘だ。彼女は男勝りで見た目も男っぽいのだが、やはり裸になると女性なわけで、本人はそれが恥ずかしく思っているようだ。彼女は褐色の肌で細いけどしっかり筋肉と女性特有のしなやかな曲線美の身体で魅力的だ。タオルなどないのでみなあけっぴろげで露天風呂に入るのだが彼女だけはかなり恥じらいながら入っている。むしろそのほうがこちらとしては意識してしまうのだが。もう一人の女性、カンチュマリ(天のキツネ)塔の巫女は俺のほうを見て少し顔を赤らめたが、意外に堂々と全裸になり入っている。
やはり温泉はいい。これまで集落ではカンチュマリたち巫女が体を拭てくれるだけで、水浴び自体も行っていなかった。現代人の俺は頭はできれば毎日洗いたかったが、最初は2日に1回に遠慮していたつもりだが、慣れると3,4日に1回でもなんとかなるものだ。実際、彼らはそんなに頻繁には頭は洗わないし、体も当然石鹸などもないが、変な体臭などする人はほとんどいなかった。建物内で火を焚くせいもあるのかもしれない。
少し熱めのお湯だったが、ゆっくりとお湯につかって2日間歩き詰めの疲れが吹き飛んだ気がした。




