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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
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180.外国人居留区2

劉麗さんは語りはじめた。

「私は漢の地方の王族の娘だったんだ。漢は高祖劉邦の時代から基本的に劉姓以外王にしてはならないという取り決めみたいなのがあったから私も高祖に連なる皇族ということになるんだけど、さすがにその時代から200年以上たつと血の繋がりも薄くなるし、劉姓も掃いて捨てるほどいたしね。同族意識よりもいかに権勢を強めるか、そのための離散集合が王侯貴族の日々の生活だった。まだ小娘のころは美味しい食べものや酒、兵士や将軍たちの活躍譚なんかを聞いて、今思うと優雅で贅沢な暮らしをしてたんだ。

嫁いだ先で嫁ぎ先を懐柔するために習い事もたくさんやった。

ただ、結局全部無駄になってしまった。

あんたは当然知らないと思うけど、私の国はね祖父の代に大きな反乱があって、その時に新しい皇帝側についたから祖父も王になれていたんだけどね。皇帝の周りは宦官と外戚が権力争いをして、私の一族は私を政略結婚させてさらに権勢を得ようとして逆に嫁ぎ先が裏切ったことで関係が悪くなったんだよ。そんでもって争った結果が両家とも没落。実家は王侯だから没落したといっても地方のさして重要でもない王におさまったけど、朝廷の監視付き。私は実家にも戻れなくなって。嫁ぎ先は完全にお家取り潰し。連座で一族郎党処刑だったけど、私が嫁いだ後か前かでそこのところだけはさすがに命がかかってたから朝廷の知人たちに金を積んでなんとか難を逃れたのさ。」

今は紀元90年ごろだろうから大きな反乱というのはちょうど前漢から後漢に移り変わる赤眉軍の反乱のことだろう。

おれは気の毒そうな顔をして黙って話を聞いている。

「まあなんとか命は助かったんだけど、その頃の漢はクソ儒教のせいでほんと息苦しい生活だったんだよ。確かに助けてもらった恩はあるけど、あれだって大金を使ってなんとか助けてもらった感じだったのに、さも恩着せがましくいろいろ要求してくるんだよ。宦官も外戚も官位や刑罰を金で売り買いしていたのに、儒教の教えでは恩を返すのは当然だからね。金を払ったうえで恩まで要求する。それでもなんとか暮らしていたけど・・・。」

後漢はかなり早い段階から皇帝や劉姓の王侯たちと宦官との勢力争いが激しかったと何かの史書で読んだ記憶がある。とはいってもどちらの勢力もやりすぎて帝国の屋台骨を揺るがせるようなことはしないようにしていたから、後漢も100年は続いた。結果的には呂布、曹操、劉備なんかよく聞く英雄が闊歩する三国時代のはじまるきっかけにもなったんだけど。

「ちょうど嫌気がさしたときに、若手の官僚で博士にもなれるのではとの噂のあった者から東の絶海の孤島で新しい国が興ろうとしているという話を聞いてね。彼も官僚や宦官の横暴に嫌気がさして国を出る計画を練っていたらしい。」

もしかしたら東の地で出会った同衍さんだろうか。

「同衍っていうんだけどね。秀才なんだけど、まじめすぎてね。賄ろを貰うのが当然の官吏じゃなく、皇帝にいろいろ教える博士の位を授けておけばいいんじゃないかという話がでて、五教博士に推挙されたのさ。もちろんその実力も十分あったけど。で、博士になれるって時に、今度は横やり。宦官勢力がそんな生真面目なヤツが皇帝のそばにくればやりにくいと思ったんだろうね。そとからみてもわかるくらいの嫌がらせをしてね。許嫁や妹、はては母親まで宮廷への召し上げという形で自分たちの好き勝手出来る後宮に連れてこさせて慰み者にしたのさ。父親も左遷。彼もすっかりやる気を失ってね。その東の国に希望を見出して国を捨てたのさ。」

やっぱり同衍さんだったのか。前に話を聞いたときはそんなことは話さなかったけど、壮絶な人生を歩んできたんだな。

「彼の他にも大国の思惑やありかたに疲れ切った者たちが集まってね。東に向かうことにしたんだ。」

「やっと苦労してたどり着いたんだけどね・・・。」

漢でのことは大変だったと思うけど、こちらに着いてから何かあったのだろうか。

「こっちに着いて学んだ詩や絵を自由に広めようかと思ったんだけどね。言葉の問題もあるけどそれ以上に広まらなくてね。もともと王侯貴族の私に労働とか難しいし・・・。」

実はこの時代、急速に芸術的なことは衰退している。やはり米作が急激に広がった影響だろう。歌とか詩、絵画、土器などの造形に時間をかける余裕が無くなったのだ。まだ北方なら土偶とか実用以上に意匠に凝ったものが多いし、大変ながらも祭りや遊びを楽しむ時間がある。でも米作地帯の土器や生活用品は完全に実用一辺倒になっている。もう少したって米作の流行も一段落すれば米作なりの芸術文化が芽生えるのだろうけど。今はいかに他人より多く米を作れるかの競争になっている。

「結局、集落を転々としながらアマテラスさんのところまで来たけど、私が漢の王侯貴族の出だと知るや、急にここの集落に閉じ込められてね。ここは、西からの渡来人、その中でも元王侯貴族や元高級官僚の住んでいる集落なんだよ。だから敵対する国の勢力の人もいてね。護衛が就くまでは家に閉じ込められていたのさ。ほらあそこにいるのは楽浪郡の県令だった男さ。あいつは賄ろをもらって国に居れなくなった奴だけど、ここでもなんとか上役に取り入られようと、それと私みたく彼の過去を知るものが、訴えないようにああやって詰め所の役人にくっついて歩いてるのさ。」

彼女の話だけでは、この幽閉のような生活がどのような意味があるかは伺い知れない。この時代のヤマト、いや俺のいる北方民族も含めて日本は基本的に女性上位だ。ただ、責任ある立場上、集落を出ない、家庭なら家を出ないというが基本になっている。男性に指揮して狩猟や家事を行わせているというのが実情だ。これは大集落や国家にも同じことがあてはまる。閉じ籠るというのは有事の際に指揮系統を失わないための籠城と同じ意味があるし、閉じ込めるというのは上位である女性を閉じ込めることで影響力を弱めようという意味があり、亡命者である彼女に対してこのようなことをするのはあまり意味がないことのように思えた。

ただ、何かの行き違いがあるように感じられた。

俺は周りを見渡して誰もいないことを確認してから彼女に話しかけた。


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