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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
173/182

173.情報

神託はすべて書き終えた。

実際、神託に書いた最悪の事態が起きる可能性はかなり低い。

ただ、多少の混乱は起きるかもしれない。

その多少の混乱を含む可能性が高い部分までのことは口頭で長老たちや交易担当者に伝えてある。

書き残した神託は残された人たちの安心感に繋がるというだけのことだ。俺自身も、最悪の想定を書き残すことで、後顧の憂いなく出かけられる。

3人ですぐに出発した。


途中、現在の糸魚川近くのヒスイ集積地の集落で数日間滞在した。

ここは、東西の交易の最も大きな中継地であり、ヒスイという産物から見ると、交易の中心ともいえるところで、事実上東西すべての情報が手に入るところだ。

ヒスイというのは生活必需品というわけではない。これがなくても生きてはいける。ただ、縄文時代の長きにわたって装身具としてすっかり文化に根差してきた交易品である。実際、様々な災害などで集落の生産力が落ちた際には交換することができないことも多々ある。ただ、腐るものではないから、そんなときも親の代からのヒスイを肌身離さず身につけるものは多い。まして復興がはじまると再生の意味もあるヒスイの緑色に魅せられてきた縄文人は多少無理をしても交換して手に入れる重要な物資でもある。

なので、ヒスイの交換比率の変化は集落運営には重要な情報というだけでなく、全国的な動静を知る一つの鍵にもなるのだ。


この時代になると、専従に近い交易人が増えてきている。以前の自給自足の副業の交易では距離が出せず200km前後が限度だった。厳しい冬季の長い北海道や北東北ではそれより短い距離で交易がおこなわれてきた。そのため、途中の集落で交換が繰り返されるので末端の集落と生産地に近い集落とでは価値に大きな開きができることも多かった。国譲り以降急に交易の専従化がすすみ、イキの集落にもヒスイ産地から直接交易人が来ることも増えてきた。逆にこちらも、より遠くへ交易人を出す必要が増えてきたので、集落から10人ばかりを交易人として専従化させている。

昔の塔の集落時代も海上交通の要員は専従化に近い形だったし、現在も家族単位で限定的な専従化を行ったこともあった。冬季はみなと同じように共同作業などをしていて、交易シーズンのみの専従化だった。

現在は完全に専業の交易人がいる。通貨がないので給料というものはないが、家族単位に一定の食料の支給、つまり固定給と交易品の余剰品から一定の割合を現物支給して交易に専従させている。現物は現地や故郷、自分の好きなところで自分の必要なものと交換する。この方式は個人的な利益にもなるので交易における交渉術はおのずと磨きがかかる。もとから専業化された弥生文化やヒスイ産地など昔から専業化された集落の人々と対等に交易するためには専業化は必須なことだった。


俺のような旅人もかなり増えてきた。

各地の情報を持つ旅人は有力者に求められていて、簡単に会うこともできたし、中には取り入って集落経営に口を出すようなものまで出てきた。

ここの集落の長とは親しい。

出雲の国譲りの最初の会議に出かけた時から知り合って友人となっていた。

前回の帰郷の時も数日お世話になりながらいろいろな話で盛り上がった。

ただ、ここ最近俺は少し会い辛い。

不老不死ゆえにいつまでも変わらない俺の姿を見せたくないのだ。

この地は東西の文化的な境でもある。

ここより東、つまり故郷の北に行けば行くほど循環思想が強く、永遠、不老不死などへの憧れはなく、むしろ変化できない、取り残されるものへ哀れみを感じる文化だ。

一方これから向かう西は永遠性、不老不死への憧れが強くなり、強く永く存在するものが神憑り的なものと思われている。それは社会そのものも同じで、集落も永く存在を担保するための権力というものが自然発生的に芽生え始めてきている段階だ。

この地より西では俺は自分の存在についてかなり慎重にならなければいけないのだ。

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