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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
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167.異国の信仰

翌日やっと異国の人たちから母国のことやここに至るまでの話を聞くことができた。

5人のうち2人はもっとも遠い出身で、今でいうところのトルコ。年齢は40歳後半から50歳代。1人はサブロウといった。まだ漢字も入ってきていない時代でサブロウはないだろうと思ったが、正確にはヘブライ語読みのサウロが本名。皆が呼びやすいようにサブロウになったらしい。そういえば初代教皇パウロのヘブライ語での読みはサウロだったと思ったが、たぶん本人ではないだろう。もう1人は弟のヨシュア。ただヨシュアは話すことができないようだ。


ただ、もっとも気になる出身地だったので話を聞く。彼の倭語はたどたどしかったので母国語のヘブライ語で話してもらった。幸い転生時に役立った翻訳のギフトはまだ生きているようで問題なく会話ができるようだ。


「サブロウ殿はローマの属州キリキアの出身だといってるけど、こちらに来る前はどこに?」


「私の父は人が生きていく上での大切な教えを広めたいといって、私と二人でローマに向かいました。ただ、ローマでは暴君ネロが圧制を布き、折しも発生した大火を父の教えの一派の謀ごととして父と私は追われる身となりました。なんとかキリキアまで逃れましたが、父はローマで教えを受けた人々が次々処刑されたとの噂を聞き、単身ローマへ戻りました。私の名前はほんとうは父のものなのです。私は父から生き延びることが大切だといわれて一人で東に向かいました。漢の都、洛陽まで来ましたが、ローマに似た独特の大国の上から目線の政治に辟易して更に東に逃れてきました。」


「サブロウ殿のお父上の教えというのはキリストについてのことかな?」

キリスト教信者は西暦64年にローマ大火の際に迫害を受けている。


「よくご存じで。その通りですが、ローマと漢などの大国を巡って、父の教えもまた大国の思惑に利用されるだけのものではないかと思い始めていたところでした。そして、この地の呪術師たちの自然の力を崇めながら、その力を探究する姿勢に感銘を受けて教えを乞うているところです。」


「では信仰は捨てたと?」


「いえ、信仰というのは自分の内なるところで自分を磨くための探究を行うのが大切です。他者に押し付けたり、組織化したりすべきものではありません。こちらの呪術師たちのように、1人もしくは志を同じくするもの同士で心を磨くことが大切だと気づかされました。ですから、今でもキリストの救いを信じております。ただ、偶像を禁止されたように、これ見よがしに表に出して儀式を行うだけのことは信仰とはいえないと思うのです。ですから人から請われればキリストの話もしますが、幸いこの地は心が豊かな人が多いので、まだ話を請われたことがないのですが。」


どうやら積極的にキリスト教を広めようとことはなさそうだ。


「サブロウ殿は何か母国では仕事をされていましたか」


「いえ、父が弟子をとり、弟子たちと信者とで日々の暮らしを支えながらローマの属州のあちこちを旅しながら教えを広めておりましたので、お恥ずかしいことに私自身もこれといって手に技を持っていないのです。」


「こちらで呪術師を目指すのですか?」


「はい、こちらで自然と共に生きる術を学ぶのが先ですが、神々の沸き立つ湖がなぜそのような名前なのかの謎に挑んでみたいと思います。」


そうか、十和田湖の噴火からすでに数千年。彼らにとっては名前がいまだ沸き立つ湖では不思議なのだろう。


後程少しこの地に伝説を残すためのお話しを作ってあげよう。


「ところで、ここに至るまでの道中は?」


「先ほど言いましたが、ローマ属州を出るまでは逃亡者ですので、兄弟で隠れながら歩き通しましたので、国の状態などはわかりません。その後も途中の小国の国情もよい状態ではなかったのですが、漢に入ることができると洛陽まで比較的楽に移動できました。洛陽ではすでに同郷も含め異国人が多くいましたので、生活するにはいいのですが、私たち兄弟は交易人ではなかったので、いつ奴隷のような扱いを受けるかと怯えながら暮らしていました。洛陽を去りたい仲間と出会い、さらに東に楽園のような島があると聞いて高句麗を経由してここにたどり着いたわけです。」


なるほど、逃亡者そして大都会を嫌う性格なのだろうか、彼ら兄弟はこの地のおおらかな文化に安らぎを見出したのだろう。


「弟のヨシュアもこちらに来て簡単な言葉は発することができるようになったのです。ローマで信者の迫害を間近で目撃したのがよほどショックだたのでしょう。大勢の人がいるところは苦手で話すことができなくなってしまったのですが。」


「それはよかった。ここには美しい大自然がたくさんある。ぜひ穏やかに過ごしてもらいたいものだ。」


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