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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
163/182

163.夜空

もう噴火から3000年近く経過した十和田湖を経由して東側に抜けるルートを選ぶ。

道のりはきついが、途中に温泉や絶景が見られるポイントが多い。

八甲田山の噴火も落ち着いている。まだ個別の山の名称はほとんどなく、白い神々の峰と総称されていたのは3000年前からかわらない。


まずは十和田湖の様子を見るために、かつて歩いた道を思い出しながら進む。以前より山の上のほうまで人の営みがあるようで、森林を焼いたりしてできた草原や背の低い雑木林が断続的に続いている。

小和田湖近くは、かつて火山灰でモノクロの景色だったころとはまったく違っていた。この辺りまでくると人の営みはないようで、巨木の森林が広がっていた。

森の中の小道を行くと、急に開けた場所に出た。


目の前が絶壁でその眼下にブルーの湖面が広がっている。

水面は穏やかで、現世の頃に見た小和田湖に近い。


ここで、野宿する。

親子3人で近くの雑木などで骨組みを作り、そこに草などを葺いてテントのようなものを作る。

ここ数千年はひとりで作ることが多かった。この間まで出かけていた西への旅は集落で歓待を受けて集落の住民宅に世話になることが多かった。この簡易テントを作るのは、毎回パートナーに先立たれると、俺は数年一人旅に出るがその時ぐらいだ。


昔は石斧などで木を伐り作ったが、出雲で作ってもらった鉈や手鋸でテントの骨組みにするくらいの径の枝は簡単に掃うことができる。ずいぶんと楽になったものだ。


まだ、この地に鉄器は本格的には入ってきていないが、普及すれば経済の動きも大きく変わるだろう。黒曜石がまっさきに需要が無くなるだろう。それにより、いくつかの交易系集落は消滅するかもしれない。ずいぶん昔に行ったピリカノウイマムも黒曜石取引の中心集落だったから、衰退するかもしれない。いまから新しい商品か、それとも新しい社会システムを構築しないと集落の維持は難しいだろう。

自給自足系の集落も鉄器などの交換のために毛皮など西側で需要のある商品に傾倒し過ぎるのも危険だ。鉄器があると毛皮の収量も増えるが、そうなると集落によって鉄器を持つ者と持たざる者の差が大きくなるだろう。格差ができると予想する。


技術の革新は収量を増やすことができるが、収入を増やすことはほとんど幻想に近いことだ。俺がいた現世でも、同様のことがいえるが、持たざる者にはなりたくないから、やはり持つ者になろうと過剰に生産しようとする。過剰に生産するから、生産物の価値は下がり、収入を増やすために必要な労働はむしろ増大する。自給自足を越えた生産と労働力は管理が必要だ。その管理には費用もかかるし、契約としての権力が必要になる。


縄文時代の良い世界の終わりがはじまったと思う。


そんなことを考えながら横になっていると。

隣からはヤエと息子の寝息が聞こえてきた。

こういう、旅もこれが最後かな。

草葺きの屋根の隙間から見える星空を見ながら寂しい気持ちに眠れない夜を明かした。


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