15.文字はなくとも
言葉は頭の中の自動翻訳?のような便利機能で問題ない。
しかし、そんな機能があることから考えると異世界なはずだが・・・。
さて、そんなことを考えながらも俺は現世にいたころから古代における疑問をカンチュマリに投げかけてみた。
「カンチュマリ、なぜ文字がない」
「文字は諍いのもとになるからいらないのです」
どういうことだろう?
文字を持つのはさほど難しくないはずだ。表音文字なら使う音の数だけ記号を用意すればいいし、表意文字なら絵文字でもいい。媒体は木片に墨で書くこともできるし、これだけ土器を作る粘土があるのだから粘土板だっていいはずだ。
カンチュマリ「文字はかつて、いくつかの氏族が作ろうとしましたが、そのたびに大きな諍いが起きて、文字は不幸を呼ぶものとなりました。言葉はお互いに知ろうと思いますが、文字は作った側が強制してくるので諍いのもとになるのです。」
あぁそうか言葉や文字は共通でなければ意味がない。普通に俺がカンチュマリと話している分には文字は必要ない。でも、別の誰かに何かを伝えたいときには文字がいるが、相手に文字を覚えさせなければ意味をなさない。言葉は対等だが、文字は書いた側が主導権がある。それをわからせようと権力が必要になる。確かに諍いのもとになりそうだな。
しかし、そうなると記録はどうするのだろう口伝だけということだろうか。
「では、記録して残しておきたいことはどうする?」
集落や氏族に関わることであれば、ストーンサークルに記します。
「それはどういうこと?」
ストーンサークルの簡単な説明を受けた。
一般的に墓と思っていたが、昨日行われた前の塔の巫女の葬儀もそうだったが、亡くなった人は集落の真ん中や家の近くに埋葬することが多い。
ストーンサークルも集落や氏族の重要な情報を入れ込んでいるから、当然集落の中心にあるだけのこと。
では墓とまったく無関係かというとそうでもないらしい。まずは埋葬された人が黄泉にきちんと渡れるようにその人の身分証明のような役割もあるそうだ。元の世界でいうなら戒名や墓碑のようなものだろう。
同時に、集落の中心に埋葬できる人は、天寿を全うした人か幼子だけなんだけど、その人を中心に家族、一族の人数や繋がりが記されているもの、さらに、その家族や氏族が狩や採集で山に入れる方向、範囲や時期、そのローテーションが記されていたりする。
いずれ集落共通の情報掲示板のようなものが多いのだという。だから、人の埋まっていない石もあるという。病死して別の場所に埋葬された人のぶんの石や、情報だけを示す石など。
また、気象やその他を記したストーンサークルやウッドサークルもあるという。特にここの物見の一族は津軽半島の海峡を渡る拠点に季節を見るためのストーンサークルが半島のほうにあるという。その見方は一族や集落の人でなければ分からないともいう。
ちなみにここの集落には常設のストーンサークルは無いように思えるが、それは主に交易で成り立つ集落なのであまり必要ないし、別の氏族に見られるのであまり作りたくないとのこと。
では神降ろしのウッドサークルは何だったか?
カンチュマリが前任の巫女から聞いた話では、今回作ったウッドサークルはストーンサークルのその黄泉へ故人を送る際の証明となる機能をいかして、逆に神の世界からこの世界に望む神を呼ぶためのものらしい。
要するに、悪神、病神などを呼ばないように、具体的に神様を呼ぶ方向やリクエストが描かれたらしく、それは遠い南より取り寄せた火炎型土器もそのためのものだったという。
それらは役目を終えて、きちんと神様が降りましたよと報告するための破壊や火祭りであって、神の世界にお返しする儀式だったらしい。
カンチュマリ「簡単な契約や、時期のずれる約束事などは土偶を使うこともあります。」
土偶にもなにか別の使い方があるらしい。
「土偶???あれってお守りとかじゃないの?」
「もちろん大切なお守りですが、交易や交易集落では必須のものですよ。」