145.会議2日目
会議は早朝からはじまる。昨晩あれだけ飲んでも天孫のタケミカズチは、さすがアマテラスの血肉の影響か齢80でも、見た目は30歳ぐらいの青年にみえるて朝から元気だ。いや、きっと爺さんだから朝が早いのか。
昨日は自由闊達な議論で小グループに別れての会議だったが、今日は朝から黒い衣の大国主神の陣営と白い衣の天孫の陣営とに分かれて議論する。
大広間も真ん中を境に左右にわかれる。
中心に大国主神と天孫側のタケミカヅチがそれぞれの陣営の前に、そして俺が中央に座って議長にような感じで進行していく。
「我々としては国譲りを要求されながら、その見返りが鉄剣と銅剣というのがどうも不審だ。鉄も銅も確かに強く有用だが、これまで戦争をしてこなかった我らに必要なものであろうか?まんまと不安感に付け込まれてそれに頼ってしまった。あれに頼るようになってから突然、交換率を引きあげられたらなんとする」
国神たちの1人が発言する。
「これからの時代、鉄や銅の生産に専門家が必要になる。そうなれば食用の配給や他の交易品の管理のための専門職も必要だ。その点、天孫の方々にお任せすれば、その運営方法を知ることもでき、加盟する集落同士の融通が利きます。やはり、天孫の方々に国を譲るべきです。」
天孫側についた1人が発言する。
皆だまって聞いている。どこぞの騒がしい国会とは違う。
昼頃までそれぞれの主張を述べていく。
大国主神が柏手を三回打つと会議が休憩に入る。
昼に軽く食事が出た。
なんと海苔が出た。黒々としてとても上質の海苔だ。
更に米がでた。ただ玄米のようでふっくらおにぎりを作れるご飯ではなかった。
再び柏手を打ち、会議が始まる。
午後は、タケミカヅチと大国主神が直接議論する。
「私は国譲りを受け入れようと思う。しかし、反対の皆が言う通り、交易に踊らされてはならないと思う。鉄も銅もこの葦原中国で生産できるようにしたい。幸い青銅に関してはある程度はできるようになった。しかし材料の銅鉱石はもちろん、錫などもすべて交易に頼っている。このままではいかんと思う。」
大国主神さまの言うことはもっともだ。
「我々も海を越えた国から得た材料で、製鉄、青銅器の作り方をやっとここ何十年かで得たものだ。材料がここで手に入るならそれに越したことはないが、知らぬものはいかんともしがたい。」
おそらく、それは本当だろう。しかし、鉱石が自前で生産できるようになれば交易の優位性は崩れるし、アマテラスは言ってなかったのだろうか?出雲地方は鉄の生産が可能な土地だということを。
「それでは、天孫の方々が、安定して鉱石類を交易する確たるものを、形でお示しいただきたい。」
「具体的にはどういったものをお望みでしょう?」
この形あるものは、双方に話して内定はもらっている。問題は、この決定が、大国主神様以外の国神たちが受け入れるかどうかだ。
「ここにいる皆が集まりひとつになれるような巨大な神殿を望む。ヒタカミノクニにも、巨大な神殿があるという。天孫の方々のご使者殿も見られたであろう。同様に、それほど優れた天孫の本国タカマガハラにも負けないような神殿があるのであろう。だとすれば、我が葦原中国もそれをもって我らの象徴として、国を挙げて天孫の方々に国譲りをいたそう。」
広間内はざわついた。国神の黒い衣を着たものの中で2名だけが中座したが、他は全て大国主神様の決定に従うと平伏した。
天孫側は少し困った顔をしている。
実は前日、何か形あるもので誠意を示せば国譲りが成ると内定は貰ったものの、具体的に巨大神殿とは言っていなかった。
「大国主殿、我々が神殿を用意するのは不可能ではないが、タカマガハラより材料や技術者を派遣するには遠すぎて難しい。交易品で同等の物資を都合する故、この地で作ることはできぬであろうか?」
「それは、おかしい。あれだけ鉄器や銅器の優位性を説かれて、神殿ごとき建てられぬとは、ヒタカミノクニのほうが優れておるのではないだろうか。」
天孫側が慌てている。
うーん。こちらの存在のせいで話が拗れても困るから助け船を出すか。
「では、建設の設計、監督は当方でやります。技術者も出しましょう。そのかわり、建設の対価として先ほど言われました交易品で同等価値の物を希望しましょう。さらに、新しい時代、新しい技術を使い神殿を作るべきでございましょう。ぜひ天孫の方々の持つ製鉄、青銅器の作り方をもって神殿を作りたいと思いますがいかがでございましょう。」
「おお、そうしてくれると助かる。昨日の勝負もあるし、製鉄、銅器の作り方は建築の技術交換ということでお教えしよう。」
タテミカヅチの言質もとった。
大国主神様もそれでよいといってくれている。
「あわせて、ヤエノコトシロ殿とタケミナカタ殿の処遇ですが」
「葦原中国外に出てくれれば、それ以上は追うことはしない。」
俺はこの姉弟の処遇についても天孫側から言質をとることができた。