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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
144/182

144.情報

タケミカヅチとアラエミシの国の長の弟ヒナとの国を賭けた勝負。

タケミカヅチの一声で会議は中断し、広間のある建物の前で剣と槍の勝負がはじまった。


ヒナは俺が普段使う短い槍を、さらに短く持った。

剣の使い手が槍先より手前に入られると長い槍は逆に不利になる。

短い槍を自在にとりまわして使うのが秘訣だ。


この時代の剣は基本的に突きの一手で攻めてくる。つまり攻撃の手段としては剣も槍も同じなのだ。そうなると、軽くて長さを自在に持てる槍のほうが若干有利になる。これが、軍隊レベルになると、槍を長くして方陣を組めば素人軍隊でも多少は戦えるものになる。剣を使うというのは象徴的な意味合いしかない。


ただ、さすがに鉄剣だ。何度か打ち合ううちに槍先の黒曜石が砕け散った。

ヒナにはできるだけ槍先は剣に当てないように指示していたが、タケミカヅチはさすがに剣の腕前はこの場に勝てる者はいないだろうと感じた。

それでも、ヒナを自信をもって送り出したのは、ここに来るまでの間、俺がもらった銅剣や木刀で剣を想定した鍛錬をしてきた。剣で襲われたときのことを想定していたのだ。まさか賭け事になるとまでは考えていなかったが、


ただ、黒曜石が砕け散ると、タケミカヅチは勝機があったと判断して剣を大きく振りかぶった。

その瞬間を待っていた。その剣が振り落とされるのと同時にタケミカヅチの手元を槍先を失った硬い木の棒が直撃した。その刹那、タケミカヅチの動きが止まったところで、剣の根本を真横から槍の柄が激しくぶつかった。その衝撃で剣は折れてしまった。


俺の槍は特製だ。槍先の黒曜石も一級品だが、それ以上に柄に使う木材が特殊なのだ。オノオレカンバ(斧折樺)という、めちゃくちゃ硬い木を使っている。硬すぎて割れることもあるので、長い槍には使えないが、短い槍には使うことができる。水に沈むくらいの重さがあり、この時代の鉄剣、銅剣なら打ち合える素材だ。


「兄上、黒曜石はダメにしてしまいました。」


「いや、よい勝負であった。それに槍先はさっそくここで鉄製のものを手に入れることにしよう。」


周りで見ていた神々たちもざわついている。

タケミカヅチら天孫たちは、慌てて散会させて、会議は翌日に持ち越しになった。


「オオキミ殿、今夜お話したいのだが。」

天孫側でタケミカヅチのそばに侍っている1人から声をかけられた。


夜になって1人天孫軍の逗留している幕舎に行った。

「こちらです。」

交易人風のものに案内されると、そこにはタケミカヅチと、勝負のあとに声をかけてきた男が座っていた。


「よくぞ参った。さあこちらに来て一杯やろう。」

タケミカヅチはそういって手招きをしてきた。

「私はアメノトリフネと申します。」


「こいつは、古い神でな。アマテラス様ほどではないが長命なのだ。こう見えてもう100歳は過ぎている。」


「本当にアマテラス様は不老不死なのですね。」


「ああ、あの化け物は俺たちが何をやってもその先を知っている。俺もこいつもアマテラスの血肉を喰らって生き延びた奴でな。」


「アマテラス様の血肉を喰らうと不老不死になるのですか?」


「いや、今までそれをやっても不老不死になったものなどいない。俺やこいつみたく、不老不死に近い状態になる者が血縁で僅か、その僅かも200歳を過ぎるころから突然、崩れるように腐れ落ちて死んでしまうことがあるのさ。こいつももう少し経てばいつ死んでもおかしくないということさ。俺もあと20年ぐらいすると、そのことも考えなきゃいけない歳になるがな。もう80歳だ。」


転生不老不死者の血肉にそんな作用があるとは知らなかった。


「最初は自分の子供が死んでいくのが寂しかったのだろうよ。そのうち自分の血肉を食べさせれば不老不死になると思って食べさせると、多くは苦しみ死んでいくが、一部は生き残り長命になる。子供のうちに食べさせるとその僅かが少し確率が上がる。そうやって生まれたのが俺たちさ。だから、俺たちはあの化け物を岩戸に閉じ込めた。」


そうだったのか。知らなかった。

「北にも同じようなヤツがいると聞いているが。何と言ったかな?そうアラハバキとかいうやつだ。あれは、どうなんだ。」


「不老不死とは聞いていますが、代々秘匿された神で、集落も転々としていますからね。」


「アマテラスよりうまくやっているということだな。」


「アマテラス様は今でも生きているのですか?」


「ああ、たぶんな。岩戸に閉じ込めたぐらいであいつは死なない。それに、俺たちは本拠地を移したからな。もう故郷には何年も帰っていない。あいつからはこれから先のことを聞き出してあるのだが・・・」


やはり、ある程度はアマテラスから歴史を聞き出して、幽閉したのだろう。


「しかし、オオキミ殿の出現はアマテラスも予言してはいなかった。俺としてはあいつの予言が外れた例外として敬意を示したい。

まぁそんなことより、国譲りについてはどう考えている。」

素直じゃないが、試合に負けたこと以外は気にしていない様子だ。


「我々のほうは遠すぎるのと交易品目が違いますから、お申し出は受けられませんが、この葦原中国については国譲りの方向で進むのがお互いのためになりましょう。」


「うむ。わしらもそう思うが、相手もなかなか決めあぐねている様子じゃ。」


「そうでしょうな。具体的な形が示されれば安心して国譲りをするでしょうが、こちらから見返りは何が良いか尋ねてみては。」


「見返りは鉄鉱石や銅鉱石をと言っているのだがな」


「確かに短期的にはそれでよいでしょう。しかし、どちらも交易でしか手に入らないもの。それに頼り始めたころで突然交換率を引き上げられたりすれば、大混乱になるでしょう。それを不安がっているものも多いでしょう。商品は商品としての信頼というものがありましょうが、ここは国譲りの名目にふさわしい形を示しませんと。」


「オオキミ殿の言うとおりであるな。では、明日はオオキミ殿は白い衣で出られるのだな。」


「いえ、明日も今日と同じ紫で出ます。私が白になれば、対立は深まり逆効果でしょう。あくまでも部外者として、大国主神さまと諸国の神々を説得いたしましょう。」


「それと謝っておくが、俺たちは見た目以上の歳で、しかもアマテラスから未来を知った。だから横柄な態度になってしまう。そこらへんは大目にみてくれ。」


「だいぶ冷え込むようになってきたな。ちょっと小用じゃ。トリフネちょっと厠に行ってくる。」

タテミカヅチは幕舎から出て行った。


「オオキミ様、タケミカヅチ様はあのように言われましたが、アマテラス様は可哀そうなお方なのです。

不老不死ゆえに簡単にはお子を授かることができず、多くは死産となります。夫との間に子ができないまま夫と死別されることもあります。せっかく授かったお子も、人間の寿命通り。しかも、乳も血肉と同じで与えるとほとんど死んでしまいます。逆にその乳を飲んで長命になる子供ができてたいそう喜びましたが、200歳になったとたんに腐れ落ちたのです。

そのショックが大きく、自ら岩戸にお隠れになったこともあります。あるとき乳で長命になるのなら、自らの血肉を与えれば不老不死の子供ができるのではと、生み出されたのが我々なのです。結局、乳で生き永らえた者たちと同じで200歳ぐらいの寿命で腐れ落ちる運命なのですが。」


「なぜ、そのような話をわたくしに?」


「もし、ヒタカミノクニのアラハバキ様にお会いできるようなことがあれば、アマテラス様をなんとかお助けして欲しいと伝えて欲しいのです。わたくしも正直、自分の子に死ぬかもしれないのに血肉を与えるアマテラスには良い思い出はありませぬが、それでもやはり天孫の皆にとって母であったり祖母であったりするのです。」


そうか、南の転生者は女性だったのか。俺も最初の巫女たちや子供たちが死んだときは悲しかった。もちろん今でもそうだ。でも、自分がお腹を痛めて産んだ子供が先に死んでいく、孫も、ひ孫も、新たに産んだ子も。たとえそれが普通の寿命で亡くなったとしても、それを2000年。想像を絶する苦しみだったと思う。


「正直にお答えいただきたい。アマテラス様は何年先まで皆様に予言を授けましたか?」


「この国譲りまでです。それ以降を知る前に、他の兄弟、つまり自らの御子達が岩戸に閉じ込めて、本拠地を北に移しました。」


「わかりました。アラハバキ様には巫女を通じてお知らせしたいと思います。」


ちょうどカケミカヅチが戻ってきた。

彼はひとり上機嫌で酒をあおるように飲んでいた。


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