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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
142/182

142.国譲りとは

「大国主神さま、少し込入った話があるのですが」

そういって、袖口から小さな勾玉を見せる。


「タケミナカタ、済まぬが、鉄剣を持ってきてもらえぬか?」

そういってタケミナカタを外に出させる。

2人きりになったところで話しはじめる。


「ヤエノコトシロ様は北の私どもの集落で匿っております。天孫も我々のところまでは手を回すことはできないでしょう。念のため本来の女性として過ごさせておりますが、よろしいでしょうか?」


「そうでしたか、タケミナカタだけでなく、ヤエノコトシロまでお世話になるとは、その上、こんな遠くまで、本当にありがたい。」


「いえ、旅の途中で引き返すことになりましたが、実はその旅はあなた様大国主神様にお会いしたくて出かけたのです。思いがけず、ご子息様たちとお会いでき嬉しく思います。」


「ヤノコトシロについては新しい人生を北の大地でおくって欲しいと思う。どうかオオキミ様には、私が付いてやれないぶん、夫なり親なりのつもりで接してやってください。」


「わかりました。大切な娘さんはこちらでお預かりいたします。」


「でも、わざわざ遠くから・・・そして、この交渉にも参加をしていただけるということは・・・ところで、あなた様は天孫たちの崇めるアマテラスという神はどのように思われますか?」


大国主神様には本当のことを話してもよさそうだ。たぶん、感づいたかもしれないし、国譲りが滞りなくうまくいってほしいので、俺の知る日本史、古事記、日本書紀の内容で国譲り前後を簡単に説明する。

俺自身、細かな神々の名前までは憶えていない。うろ覚えだがおおむね合っているようだ。


念のため大国主神様のこれまでの逸話も紹介した。

因幡の白兎の件の話をすると、その話はまだ跡を継ぐ前だという。それも兎ではなく、海洋交易で海賊に襲われた集落を助けた話で、兄弟たちは交易品を失い弱った集落に追い打ちをかけるように交易品を今まで通り交換するように要求したが、大国主神様はそうせずに支援したという。実際にあった話だという。その支援先がたまたま妻の実家だったという。

笑いながら話を聞いていた。


「ここからお話しするのは、アマテラスが生きている。もしくは正確に天孫たちに伝えていれば、こうなるだろうという話です。」

そう前置きしたうえで国譲りについて話をした。


ここまで話したところでタケミナカタが鉄剣を持って戻ってきた。


大国主神は鉄剣を俺に手渡して、葦原中国から見た国譲りについて話し始めた。


内容を聞いてなるほどと思った。

今では国譲りという表現だが、実際にはこの時代は交易権益のピンハネ権だと思うとわかりやすい。

なぜかというと、国とはいってもこの時代は氏族単位の集落連合で、税や行政機構はまったくない。氏族とっいっても家族経営の自営業のようなものだ。だから、国をよこせと言われて、はいそうですかと集落をみんなで出られればまったく意味がない。


天孫たちが考えたのは圧倒的に有用な青銅・鉄の交易権を末端まで支配することだ。

あとは、まだ鉱石は掘りあてていないが鉄鉱石や銅鉱石の資源だろう。

ただ当面の国譲りの目的は交易に関する利権だ。


今までの交易では、途中、途中の交易で交換していくので、交易品の利益はその場その場で確定していく。それを、遠く離れた場所でも同一交換率にするかわりに、末端の交換場所でも同じように自分たちに利益が入るシステムに変えたのだ。

そのための軍の存在と武器を持った鉄と銅鉱石、銅鉱石以外の商いはしない妙な交易団なのだ。

そのかわり、全ての交易品に品物によって一定の割合を納めるよう要求する。

集落側のメリットは、鉄鉱石、銅鉱石、錫の優先交易権と必要ないのに軍による護衛だ。

早い話が、天孫たちは国神たちを強引にフランチャイズ化する計画だ。

つまり大国主商店から、大手コンビニチェーンに看板を掛け変えろというのを強引にやろうという話だ。


交易系集落にとっては死活問題のところもある。たとえば、隣の集落が天孫側について鉄器や青銅器の商いをはじめられたら交易がすべて隣に取られる可能性もあるのだ。

小さな商店の真向かいにコンビニができるようなものだ。

それゆえに、我先に天孫側についた集落もあり、総じて国譲りに絶対に反対という空気ではないのだ。

天孫側も強引に人々を傷つけてまでやるメリットはないわけだが、20年以上交渉して良い結果が出ていないので、さすがに業を煮やしたというところだろう。


天孫側が急に国譲りに強硬になってきたのには別の見方もある。

すでに西日本は弥生時代に入ってきている。縄文時代と弥生時代の大きな違いは、完全な専門職がいるかいないかだ。

俺の集落も多少の専門職はいるが、狩猟・採集もする。集落単位でみると完全な自給自足だ。

弥生時代の集落では、職業が完全に別れている。農耕に従事する者は農耕専門だし、交易は交易専門だ。集落に寄って重きを置く業種も違うから、食料自給率は集落によって違いも出てくる。農耕に特化して、余剰生産を他の集落で交換するところもあれば、銅器や鉄器を扱い食料と交換するところもある。鉄や銅、そして水稲栽培の開始が専門の職業化を促したのだ。

ただ、急速に生産が拡大して、いわゆる販路も拡大路線を維持しないと集落経営が難しくなってきているのかもしれない。鉄器や銅器が普及していくにしたがって、価値が下がっていく。今まで通りの物品と交換するためには生産量を増やす。そうするとまた交換率が下がる。交換率が落ちれば自分たちの食糧事情も悪くなる。米に関しても同様だろう。

つまり職業化して物品のあふれた弥生経済のデフレ対策で新たな市場、しかも鉄器、銅器の武器としての販路拡大が一番いいと気が付いたのかもしれない。貨幣が無くてもデフレは十分起こりえる危機だ。


ということなので、俺たちは直接的には関係ないが、やはり、ここまで来たからには何か有益なものを得たいところだし、少しでも大国主神様のお役に立ちたい。

それに、今回交渉できている天孫軍を率いるタケミカヅチは本物のアマテラスを幽閉した派閥に属している武闘派だという。

そこらへんも考えながら、こちらに有利な交渉が必要になるだろう。


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