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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第2章 動き出す神々 Action of Gods 木の国
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140.入国審査

神々の集う会議は秋分が終わって最初の満月に行われるという。

すでに、秋分を過ぎて3、4日経っているので、もう出かけないといけない。

タケミナカタとともに葦原中国(出雲)へ向かうことにした。


同行者は俺のひ孫で19歳のイケメンのヒナと二人だ。ヒとはひとつ、ナとは野の意味で平らかな土地の意味。交易でだいぶ倭語が流入してきて倭人風の名前をつけるのがブームだ。ちなみに15歳ぐらいの歳で転生した俺だが、2000年ぐらいかけて成長して見た目は20歳前後に見えるようになった。ヒナと俺は兄弟のように見える。


この時期の風向きから帰りは舟のほうがよいが、行は歩きのほうが早いだろうということで、徒歩で向かうことにした。


ヤエ(ヤエノコトシロ)様には集落の巫女として俺の代理を頼んで、長老たちもそれを了承した。これで、留守は安心だ。


出雲方面はもう1000年ぐらい前に行ったきりだ。その時、いろいろ調べてまだ神々の痕跡も、生まれる兆候もなかった。まして国などなかったので、がっかりして戻ったことがある。その後、急に国が現れたのだろうか?


そして、アマテラスと天孫たちだ。アマテラスはなんとなく俺と同じ転生者のような気がする。だとしたら、なぜいきなりアマテラスを名のったか?

歴史をその通りなぞるつもりなのか?それとも、歴史を改変?周りに担がれただけか?


俺も転生者、不老不死でこの先の出来事を知っているとバレたら同じように幽閉されるかもしれない。それは、天孫側の天津神についても大国主神側の国神たちについても同じになりそうな気がする。

まぁ俺自身のことがバレなければ、タケミナカタにも言った通り、今すぐ殺されたり幽閉されるということはないだろう。


葦原中国の影響下にある国は今でいう糸魚川のヒスイ産地からはじまっていた。ここにも、交易団を装った武装した天孫側の兵士と思われる一団が逗留している。明らかに怪しいが、こちらに手出しする素振りはない。

こちらも無視して先を急ぐ。


途中、国というかいくつかの集落連合の長達と合流しながら葦原中国を目指す。皆いかにも神様風の名前を持っている。というより、たぶん全部覚えていないだけで、ちゃんと後の世まで伝わる神様たちなのだろう。


途中、他の集落の長たち、神々から情報集をしながら、葦原中国に着いたのは会議のはじまる2日前だった。

宮のあるサタは現世の出雲大社のあるあたりかもしれない。


そこに入る前に事実上の検問のようなものがあった。

天孫側の包囲網のようだ。

武装した兵士が一人一人出身国を尋ねている。

その後ろで、1人が黙々と何か書いている。

まだ文字はないはずだ。

ちらっと盗み見したが、すべてカタカナで書かれていた。

明らかにおかしい。時代が間違っている。カタカナも平仮名も漢字が入ってきてからできた文字だ。もうあと数百年すると漢字が入ってきて、倭の言葉に当て字で使われるようになる。倭語の大半が1音で1つの意味を表すことが多い。その過程でできていくのがカタカナや平仮名のはずだ。


アマテラスが教えただろうな。

俺も転生したての頃の最初の巫女、カンチュマリの文字は諍いのもとと言われなければ真っ先にやったことだろう。


まあ、出身国と名前を聞かれるだけで、他は何も無いので気にしないことにした。


島根県は南側は山地で覆われ、北側に平野と宍道湖があって、その先海側にも山々が連なる不思議な地形だ。その海側の山地は古代の国作りの神様が鎖で土地をあちこちからひぱってきて繋いだといわれる部分だ。その中の西がわのサタと呼ばれる地に大国主神の宮はあった。


宮は高床式で、昔、もう2000年かそれ以上前かは定かじゃなくなってしまったが、転生した時に寝かされていた竪穴式の大堂を思い出す広さだ。

高床式といっても高さは1.5メートル程度だが、広さはなかなかのもだった。

同じくらいの大きさの建物が三棟建っているが、それでも俺のところの集落建物と比べるとかなり見劣りする。

途中の集落の感じからすると、これでもかなりの国力を持っていると思える宮にには違いないし、俺たちのように集落丸ごとの建物ではなくて、あくまでも大国主神とその家族のための宮殿だということを考えると国力の大きさはやはり予想以上にあるということだ。


タケミナカタの計らいで、会議前に大国主神に会って話をする機会を得た。

何を着ようかかなり迷った。現世では出雲は黒い衣装だったと思った。大国主神は大黒様ともいわれるぐらいだから黒が主体の服だろう。かわって天孫系は何色かわからないが、たぶん白だと思う。なんとなく俺がアマテラスならそうする気がする。


アマテラスは文字を歴史より早く導入してしまったようだが、俺も実はやらかした分野がある。絹糸の生糸生産と織物だ。

まだ家蚕はないのでヤママユガの繭を集めて生糸を作り、それで絹織物を作ったのだ。正直、絹は分解されやすく遺跡に痕跡を残す可能性が少ないだろうと思ったからだ。

俺の持ってきたのは山繭蛾独特の萌黄色の光沢感の強い絹100%の狩衣風衣装だ。


思った通り大国主神は黒い衣装だった。イメージと違ったのは、狩衣に似ているが袖繰りも細く裾も短く、遠目には普通に長袖シャツのように見える。ふと懐かしく思ったのはラーメン店の店員のような黒いTシャツ、ズボン姿に見えたからだ。違ったのはでかいヒスイの勾玉を首から下げていて、シャツの裾を抑える帯には金の金具がつけてあるところだ。

それでも軽快に動ける衣装だ。


「深緑の王国から参りました。オオキミと申します。」

平伏したまま自己紹介する。


「そのようなことをなさらずとも。さあ頭をお上げください。私のほうが息子を助けていただき、またアシワラノナカツクニより外側の国にもかからわず、こんな遠くまで御出でいただきありがたく思っております。」

そう言って、俺の前に駆け寄って平伏して頭を下げた。

あわてて、顔をお上げくださるようお願いし、お互い近くで相対して話をすることにした。


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