14.世界を知るのはまだ先
縄文3日目。今日は早く起きた。昨日の夕方できてきた狩衣を着る。少しごわつく感じだが、暑い季節なのでそのまま着ることにした。
下着のパンツはちゃんと穿いてます。
でも、下着のことも後々考えておかないといけない。縄文遺跡の発掘でブリーフとかトランクスとか出土したらまずいし。やはりふんどしのようなものを作るべきだろうか、それとも技術チートで絹織物でも作ろうか。どうせ絹なら分解されて数千年後に出土する心配もなさそうだし。実際、現代でいうところの家蚕はいないけど、山繭蛾の繭はあるし、絹100%ではないけど使ってはいるみたいだ。
ちなみに山繭蛾の繭から生糸を作るのは難しい。普通の家蚕のように長く途切れずに糸を繰りだせないものが多い。なので絹紡紬糸という、羊毛などその他の短毛の繊維と同じように手紬で糸を作るしかない。タイラギという貝の足糸からも繊維がとれる。確かヨーロッパでもレア素材でシーシルクといわれていたはずだ。そういったレア素材で下着を作っても面白いかもしれない。
さて今日で3日にわたる祭りも終わりだが、その最後にストーンサークルのひとつが見られるらしい。三内丸山にストーンサークルなんてあったかな?
もし、すでに発掘済みエリアにそれがあれば、ここが異世界、パラレルワールドということがわかる。少なくとも過去の日本ではないとわかるのだ。
塔からでて、スロープを降りていくと、輿が到着していた。それに乗ると集落の南側の少し小高い丘に登りはじめる。その丘の上につくと、丘の上で輿は台に固定された。
丘の陰で見えなかったがゆるやかな谷状の地形になっていて、南斜面にびっしりとストーンサークルがあった。でも、よく見ると何か違う。そう、石ではなくて木でできているのだった。丸太や枝を使って斜面に不思議な紋様を描いていたウッドサークルだった。集落の人々は次々とその丸太や枝を回収し始めた。それを丘の上に積み上げ始めた。
今日の宴はここで行うらしい。料理が次々運ばれる。歌や踊りが披露される。そんな中でもカンチュマリたち塔の巫女は1人しか俺についてこない。そう、塔の留守番があるのだ。
太陽が西に沈むころ。集められたウッドサークルだった丸太や木の枝に火が放たれた。
赤々と巨大な炎と黒い煙が立ち上った。
こんなふうに、知っている縄文時代とは違うと思う事柄があってもその痕跡はすぐに消されてしまう。だから、本当にここがどこなのかまだ知ることができない。ここは、過去の日本なのか?異世界なのか?パラレルワールドなのか?
じっと炎を見つめながら考えていた。
祭りは炎が消え、煙も立たなくなったら終わりだという。
俺は、明日からの自分の役割について考えながら塔に戻った。
空には満点の星。天の川に夏の大三角形。
星空も地球そのもののようだ。