130.設計
巨大木造建築の設計がはじまった。
2つ分の集落の住民を収容できる大きさが必要だ。
その前に神嫁はミ・ヨ・ノ・キミ(水淀の王)の娘レラタサ(風に向かう)に決めた。最初の印象もよかったし、避難した集落民の世話も一生懸命だったのに好感が持てた。
それと、俺は巫女や神嫁を選ぶ時は、本人の意向を一番重視する。
中には親の言いつけや、暮らしの上で楽になろうと神嫁に志望するものも多くはないがいる。
彼女とはよくよく話し合って決めた。
紙はもちろん羊皮紙的なものもないので、小さな小枝で模型を作ることからはじめる。
2つの集落を収容できる大きさが必要なのと、耐震、耐火、防寒、防風、対害虫、明るさなど様々な条件をクリアしなければいけない。
そこら辺の対策は神謡の知識でクリアできそうだ。
過去の技術や知識ならここで使っても歴史に影響はないだろう。
それにプラスして歴史に影響を与えかねない規模の設計で模型を作る。
まだ技術的に不完全だった木を継いで高さを出すための方法だ。
材料が足りるかわからないが、とりあえず提案だけはしてみる。
これまで、1本の大木に楔を打つように2本目を差し込んで、そこを葡萄蔓でぐるぐる巻きにして継ぐが、この方法は継ぐのが2本が限度だ。高さも無理をして25メートル程度だろうか。以前住んでいた塔の集落の塔もその方法に近い形で高さを実現していた。
今回提案するのは、1本12メートル前後で長さの異なる3本の丸太を束ねて、およそ30メートルを超える高さの建造物を作ることだ。
1段目の3本の大木は12メートル、10メートル、8メートル。それに2番段目を3本とも12メートル。3段目を8メートル、10メートル、12メートルの異なる長さで継いでいく。合計は32メートルだが、2メートルは地中に埋めるので実質30メートルの高さになる。
これを中央部の広場を取り囲むように1辺5メートルの6角形に6本配し。大木をそこだけで柱6本×3本×3本の54本使う。
出雲大社の古代の金輪の造営に似た方法だ。
ちなみに、金属はないので葡萄蔓、カズラ、蔦、草で作った縄などでぐるぐる巻きに固定する。これをタマクワと呼んでいる。環輪という腕輪に似ているからだろう。しっかり締め上げる技術は十分あるようだ。
その外側は2本束にして2段で継いで22メートルの高さ。さらにその外側は今まで通り1本で15メートル。外側12列×13列で設計した。
真ん中の6角形の広場はもちろん吹き抜けだが、そこに至る東西も列柱室風に吹き抜けで3層目の床は作らず巨大な梁だけが見える形にした。
他は今まで通り3メートルの高床式、その上は4メートルの高さで2層構造。
中央広場周辺の2本継ぎの25メートルの高さのところは3層構造で外側の屋上に出られるようになっている。
中央の30メートルは上部は屋根を考える。
正直、高さを出すのはいいが、屋根を付けると構造上弱くなりそうだ。
そのまま真上まで開口部にしたほうが、明り取りになるしいいのだろうか。
イ・キ・ノ・キミとミ・ヨ・ノ・キミに相談する。
やはり雪や風のことを考えると、屋根はのせず、開口部は放射状に丸太を渡して大雨や大雪時は布を被せて建物内にあまり雨水が入らないようにする程度にしようということになった。
そのかわり、建物の四隅、4本の柱を2本継の20メートルにして、上部を櫓にする提案は受け入れてくれた。
この櫓は神社の千木と鰹木に似たものを屋根にのせることにした。
模型はほぼできあがった。
2段継ぎは他の集落ではすでに実現していて20メートル級は普通にあったようだ。
ただ、外周部で縦横13列の柱を使う巨大さは他にはない。
2つ分の集落で用意していた材料と古い建物から流用できるぶんに、少し材料を足さないとできないが、そのくらいは問題ないという。
ただ、立地が丘の上では、建設用の足場を構築し大木をその足場に上げるためのスロープなどに時間と人手がかかるという。
丘の下ならば建設は相当に楽らしい。
ただ、皆もあの津波の経験から丘の下に作りたいと言う者はいなかった。