124.懐かしむ旅
北のモシリ、北海道の物見の氏族もユペツの集落にももう俺が転生したころのことを知る者はいなかった。カンナアリキ首長もとっくに亡くなって、今はひ孫にあたるアトゥイ(海)という若い女性が首長を務めていた。
レブン・ノンノにどこか似ている。まぁレブン・ノンノの姪の子になるわけだから似ているのも血筋だからかもしれない。
後ろ髪を引かれる思いもあったが、悲しい別れのすぐ後で、これを5000年繰り返すのかと思うと何も言い出せずに集落をあとにした。
オシロナイヌプリ(北海道駒ケ岳)は静かに噴気をあげているだけ。まだきれいな富士山型だ。山体が崩壊して、大沼、小沼の美しい景色が現れるのはまだまだ先のことだ。
ピリカノ・ウイマム(良い市場)の集落はまだ本格的な交易シーズンじゃないから静かだ。物見の氏族の交易用の住居はもう掃除されていたので使わせてもらう。
巫女たち3人そろっての旅行で温泉に行ったことを思い出して、山奥の秘湯に行ってみる。
1人で温泉に入って、そのまま野営の準備をして夕飯を食べ始めるが味気ない。
ふと横を見ると北キツネが物欲しそうにこちらを見ている。
現世なら野生動物の餌付けが良くないだとか、寄生虫がどうのといわれるが、この時代、そして俺のこれからの生の長さからいったら関係ないだろ。
干し肉を少しちぎって与えると、嬉しそうに食べている。
翌朝もすぐ隣に座っている。
朝の光でよく見ると、毛の色が少し赤みがあってカンチュマリを思い出す。
頭をなでることができるかな?と思って手を出してみるが、嫌がるそぶりもなく撫でさせてくれた。
それから、ずっとついてきている。
ウス(有珠)の集落もほとんど変わっていない。
マコマイ(苫小牧)の集落もだが、気になってたシカルンテたちコロポックルが隠れ住んでいた隠里に行ってみる。
跡形も残っていなかった。
たぶん、他の住民たちに紛れていったのだろう。
アシリクルはトカプチに入るのにカムイエクウチカウ(幌尻岳・戸蔦別岳)の辺りを越えたらしい。
俺も同じ景色が見たくて、このルートに挑む。
ヒグマが転げ落ちるという意味の険しい山々、原初の山(原初の神が創った山)でもあるピラミッド型の戸蔦別岳を眺めて思いにふける。
こんな険しい山にもキツネはついてきた。
名まえをマリと名付けた。
カンチュマリと付けるのは、あまりにも思い出して悲しくなるし、呼びやすいようにマリにした。
野営の時はいつも隣に丸くなって寝ている。
アンヂ・アンパラヤやタタル達の村。
ピウカ(玉石の河原)の集落についた。いつも通り長のところに行って挨拶を済ませるが、見るなりオホシリカム様と名前もわかっていた。
女性の首長がいた。以前は塔の集落と同じで長老制度だったが、アシリクルが集落に来てカムイミンタラ越えを成し遂げると、アシリクルが神の依り代として事実上の首長を務めるようになったという。それから、すぐに巫女兼呪術師のシカルンテの子供が2代目の首長に、いまはウヌカルという女性首長でシカルンテの孫がなっていた。まもなくひ孫の代になるという。
ウヌカル本人とは会ったことがなかったが、俺のことを本当にしっかり覚えてていた。
神の歌できちんと伝えられていて、姿も声もわかるのだという。
ピウカではとても歓迎された。
3代前のことにもかかわらず、コロポックルとの確執を抑え、トカプチに呪いだけじゃなく太陽の意味も見出した南の偉大なカムイとして迎えてくれた。
ウヌカルの話ではシカリペツのコロポックルの集落はまだあるという。
カムイミンタラ(大雪山)越えの前に立ち寄ることにする。
やっと第1章の終わりが見えてきました。
第2章に向けて大急ぎで書いたので、誤字脱字、表現など不備がありましたが、後々少しずつ書き直していきます。
一番書きたかった第2章は少しじっくり書きますので更新が遅くなります。