121.別れ
俺に孫ができた。俺が来た頃の長老たちも全員古老だ。普通の集落ならもう寿命で亡くなってもおかしくない年齢だが、豊かなこの集落では比較的長生きできる。
年月の過ぎ去るのが異様に早く感じる。
それでも、転生して最初の縁に強く惹かれているのか、なかなか新しい縁を持ちたいという気持ちになれない。
カンチュマリが、新しい巫女を入れる提案をしたが却下した。
俺にとってはアシリクルはまだ巫女のままだ。
正直、カンチュマリもレブンノンノもアシリクルが去ったときの気持ちも多少持ち合わせているのだろう。一緒に寝るのも遠慮がちになってきた。
それでも関係ないと俺は二人に甘え続けた。
アシリクルは最初うちは1年に1回集落に戻ってきて、珍しい産物や工芸品を持って、遠くの地の話をしてくれたが、それが1年半、2年と間が伸びて、やがて現れなくなった。最後は海峡を渡ったというが、その行方は知れなかった。
そのうち、俺が転生した時にいた長老たちが一人、また一人と亡くなった。
カンチュマリも寝込むことが多くなった。
レブン・ノンノと二人で看病する。
奇しくも俺が転生した夏至の日の夜だった。
夏至の祭祀は息子のチュプ・カムイに任せていたが、祭祀が終わってすぐに駆け付けた。
「チュプカムイ、これを、大切に子孫に伝えていきなさい。」
そういって金の指輪を嵌めた手を差し出す。
もう自分で指輪を外すこともできない。
チュプ・カムイは躊躇したが、俺が頷くとカンチュマリの指から指輪を外すと、自分の指に嵌めた。
それを見せると
「立派に母上、父上のように子子孫孫集落に尽くします。」
カンチュマリはうなずくだけだった。
最後に俺の手を握って。
「きっとまたみんなで会えますから、それまでほんの少しのお別れです。ユウダイ様、この地をよろしくお願いいします。」
そう言って黄泉に旅立った。
あとの祭祀は記憶に残っていない。
ただ、茫然と立ち尽くすしかなかった。