119.指輪
集落に戻ると、すぐに砂金の加工を始めた。
石皿の坩堝にして砂金を入れて、炉の中で木炭を燃焼させる。
木炭はナラの上質なものをえらび、動物の皮で作った鞴で一気に燃焼させる。初期の燃焼で金の溶融温度までなんとか達するはずだ。
粘土で鋳型も作ってある。
一番の問題は溶けた金の入っている坩堝をどうやって鋳型に注ぎ込むかだ。
他の金属などは無いので、儀式用の石刀を左右2本ずつ石皿の両端を挟み込むようにして手元を蔓でしっかりと固定して挟みんこんだ。少し重くなるがなんとか炉から出し入れと、流し込む作業はできそうだ。
そして粘土で作った鋳型に流し込む。
事前に作りたい形の木型を使って作った鋳型だ。
同じものがとりあえず4つある。
完全に冷めてから鋳型から取り出して、バリ取りをして小さな砥石で磨く。
4つの金の指輪を作った。
3人の巫女、カンチュマリ、レブン・ノンノ、アシリクルを呼んでそれぞれにその指輪を贈る。事前に木型でサイズを調整したからピッタリのはずだ。
カンチュマリ「これは?」
他の2人も微妙な顔つきだ。
「これは金という貴い金属でできた指輪だ。この輝きは永遠に続く。だから君たちに贈ろうと思う。俺も常に同じものをするから、君たちもずっとつけていて欲しい」
3人とも嬉しそうにその指輪を付けて眺めている。
歴史の改変に何か強制力は介入してこないようだ。
しばらくして、交易人が訪ねてきた。
琥珀の交易人だ。
俺は残った金を同じように鋳型に流し込んで小さな人型の土偶の金バージョンを作っておいたのを見せた。これで、琥珀と交換しようと考えたのだ。
交換の提案の答えはノーだった。
「この輝き太陽のようで、しかも永遠に失われない、これは価値のあるものですよ。」
交易人「いやぁ、私どもの琥珀のほうが上ですな。それでは偽の太陽といわれかねません。」
まず金は琥珀に比べて重すぎる。
重いものが太陽のように空に浮かぶはずがない。
琥珀は軽くて海の水に浮かぶ。
色については、琥珀は確かに少し暗い色をしているが、それは太陽が暗い夜の海を渡るうちに黒くなった皮膚を夜明け前に落としたものが琥珀なのだそうだ。だから海岸に打ち上げられるものも多い。
彼らは琥珀は闇夜を渡る太陽の皮膚が落ちたものだと言ってセールスしているのだ。
それに円環思想、全てが巡るという死生観がある、彼らには永遠性はあまり価値がない。確実に跡形もなく朽ちるものが、全てが転生できると考えている。だから永遠のものなどは、その枠から外れたものとして見られるのだ。
だから巫女たちも金の指輪を最初見たとき微妙な顔をしていたのか。
それでも、俺からの贈り物だから嬉しそうにもらってはくれたが・・・。
こんなところで、こんなふうに、歴史が修正されるとは思わなかった。
歴史を歪める行為は劇的な力で修正されると思っていたのだが、なるほど、修正力も大きいとそれ自体が歴史を歪めるのかもしれない。だから、こんな地味な方法で修正力が働くのだろうか?
地味だが精神的にきついお仕置きだ。
では、俺が転生した意味は?
そして、本当にここは過去なのか?
改めて疑問に思う。