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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 旅路
118/182

118.輝くものを贈りたい

俺とアシリクルとで南に向かう。

アシリクルが巫女になる前に一緒に行った十和田湖のほとりを通って、クルマンタ(大湯)を過ぎて米代川を今度は左に上流のほうを目指す。

クルマンタの集落に人が戻りはじめていた。ただ、以前より集落は西側に移っていた。


米代川を上流に向かい、そこから峠を越えて目的の山を見つける。

このあたりは現世と大きな違いはなさそうだ。

そして、俺はとある場所に向かう。

小さな川の上流だ。

目的のものは全国的に採れる場所はあるが、具体的にどことなると、数か所しか知らない。

最も有名な場所は佐渡ヶ島、確実に採れると知っているのは北海道の道北、そして郷土なら多少郷土史を趣味で調べたりしているからわかる場所がある。

そう、金を探しに来たのだ。


この時代の日本に絶対無い技術。それは冶金、金属を作り出す技術はないはずだ。

ただ、いきなり銅とか鉄は無理だ。

一説には、青銅器よりも鉄器のほうが時代が古いという学者もいる。理由は、鋼鉄のほうが熱して叩く方法で、溶融させて鋳造するより低い温度で鉄器を作ることができるからだ。

鉄はそれを鋳溶かして精練するのは難易度が高すぎるが、鍛造鉄なら鉄鉱石を集めればなんとかなるかもしれない。磁鉄鉱も精練は難しいが、それで砂鉄を集められれば使えるかもしれない。ただ、最大の問題は大量の木炭が必要になることだ。そして専門家じゃないから炉の形状などもわからない。そもそも、最初の鋼を打つ鎚も石鎚しかないのにできるかわからない。たたら製鉄に必要な知識は神謡の中にも見当たらない。

一般的には青銅がむしろ金より融点が低くできそうだが、なんせ材料となる銅鉱石と錫の採れる場所が正確にわからない。わかっている所でも坑道で採掘しているところだったから、行ったところで採集できる確証はない。


その点、金ならばなんとかなりそうだ


そして、金ならば加工が楽だし、人々を魅了することがでえきるかもしれない。それを入り口にして他の金属への興味を持ってもらえたらと思う。


砂金を集めて多少の木炭を使えば石鉢か土器の皿でたぶん溶かすことができると思う。


これを実現して、世界がどう変わるか?

変わらないか?

転生後の一番の大きな実験だ。


河原に降りて現世の頃、観光用の砂金堀体験で行った作業を思い出しながら、川底の砂を掘って土器の皿で揺すってみる。

わかりやすいように、土器の表面は黒い漆を塗ってみた。そして、砂金が滑り落ちないように、細い凹凸も付けてある。

そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、何回かやってみると、よく見ると皿の底に黄土色の粒が見える。

どうやら、大当たりのようだ。


アシリクルにもやり方を教えて、この黄土色の粒をひたすら集める。

夢中になって川底の砂を掘り返しては皿で揺する。

大きなもので小豆大の粒も見つかった。

これは黄土色というより、きちんと金色に輝いている。かなりの大収穫だ。


3日ほど滞在してかなりの量が採れた。

目的の物を作るのにはたぶん十分だ。

砂金を入れた革袋はズシリと重い。

これだけでも、縄文遺跡として発掘された集落のどこかに埋めれば歴史が変わる原因になるはずだが、さらに一歩進めて加工もやるつもりだ。


さて、故郷の近くまできたので、俺が生まれ育った、いや、まだ育つどころか生まれてもいない場所が故郷といえるのかは疑問だが訪れてみることにした。


故郷の地にあった集落の大半は貧しかった。最大の原因はとうの昔に起きた岩手山の噴火の影響がまだ続いていたのだ。大規模な山体崩壊と、それに引き続き溶岩噴出を伴う噴火、山体崩壊の範囲は広大で、狩猟・採集場の大半を飲み込んで、いまだに泥流が頻発していた。岩手山の噴出物がガラス質が多いことに起因しているのか、植物の茂る速度も非常に遅いようだ。


ただ、1,2か所の集落だけが豊かなようで集落間格差が激しいようだ。

家族制度が柔軟なので当初は格差が起きないように、豊かな集落で女性、子供を引き受けていたが、時が経つにつれて、成長すると、集まった集落のほうが生産性が上がり、逆に貧富の差が開いたり、集まった集落が食料難で衰退したりで、集落間で少しずつ不満が蓄積してしまったらしい。

その不満が、狩猟・採集場を過度に守ろうとする閉鎖性に繋がり交易路として使えなくなってしまったのだ。


とりあえず、ルート上の各集落の長には挨拶をして、今後交易で通りたいということを頼んだが、この貧しさではなかなか交換するものもないだろう。


これ以上滞在してもできることはないので、戻ることにした。


戻りは故郷の中でも美しい山として知られている八幡平の山を越えるルートに挑んでみた。

アシリクルに故郷の美しい山の景色を見せたかったのだ。


山頂近くの緑に囲まれた沼と湿地の景色を見てもらう。

美しい高山植物の咲く湿原、高原を渡る風。

アシリクルは涙を流しながらその景色を見てくれた。

俺にとってはその全てが輝いて、大事に抱える金のほうがただの黄土色の土くれにしか感じなかった。

アシリクルが少し気持ちが明るくなってくれればいいのだが・・・。


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