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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 旅路
116/182

116.噴火の爪痕

塔から眺めると、八甲田の大岳付近は相変わらず噴煙を上げているが、十和田湖方面に噴煙は見えない。そろそろ確認に行ってみようと思う。


カント・ヨミ・クルに声をかけると、ストーンサークルの建設で忙しいが、クルマンタのことも気になるので行きたいという。

なのでできるだけ短期間で調査をすることにした。ほんとうはトワリ(十和利)や東の現世の十和田市、八戸方面の調査もしたかったが、それは次の機会にすることにした。


八甲田の峰々の多くは降灰で大きな樹木は枯れていたが、その脇から新しい枝が伸びていたり、火山灰の大地にところどころ草が生え始めていた。さすがに南八甲田の櫛ケ峯以降の十和田湖周辺は不毛の大地に見える。

それでも、僅かに草が生えてきていた。

十和田湖の外輪山に達すると、おおむね現世の十和田湖の形に近い状態になっている。中湖の外輪山もまだ噴気を続いていて、一部高さが現世とは違う部分も多いが、これ以上の爆発的な噴火はもうしばらくは起きないはずだ。

湖は青白く濁っているが、噴火直前よりは湖面の波も穏やかだ。


「山が一つ吹き飛びましたね。」

カント・ヨミ・クルが話しかけてきた。

「トワリ方面は全滅かな?」


「はい、あれだけの山が無くなるのですから、おそらく2,3ヒロぐらいは灰に覆われていると思います。」

1ヒロは両腕を広げてロープをたるませないで支えられる長さ。多少身長で誤差はあるが、全地域共通でおおよその長さを伝え合う時に使う単位のひとつだ。

つまり3メートルから4.5メートルぐらいは噴石や火山灰が積もっている可能性がる。

塔の集落があの程度で済んだのは本当に奇跡のようなものだ。


「とりあえず、前回のような大規模な噴火は起きないと思う。あとは、この火山灰の中でどのていど植物が回復できるかだな。」


噴出物にガラス質ケイ素が多いと植物の成長が阻害されてなかなか緑は回復しない。その間、雨が降るたびに泥流が起きる。ガラス質が少なければ、意外にミネラルが多い火山灰で植物が戻るのは早いだろう。


十和田湖の北側は火山灰が積もり硬くなっていたが、西側は噴石も転がっている。だんだん黒い石も増えてきたが、歩くのにはさほど難くない。

土地勘のあるカント・ヨミ・クルですら、クルマンタの集落へ下りる場所がなかなか見つけられないでいた。

下りの沢沿いは泥流の流れた後で険しく切り立っていたり、噴石が転がり歩きづらい。沢伝いの下山を諦めて尾根伝いに山をおりて、何とか現世の大湯付近にたどり着いた。温泉のあった河原も変わり果てていた。

この辺りに来ると、なんとか地形がわかるようで、カントヨミ・クルが足早にクルマンタの山へ向かう。

山肌はほとんど火山灰に覆われていたが、傾斜がある分積もった火山灰は少なかった。かつてカント・ヨミ・クルたちが建てた木の杭もわずかだが見えている。

麓の集落の家はほとんどが埋もれているか、潰れていた。カント・ヨミ・クルの家も火山灰の重さで潰れてしまっていた。

カント・ヨミ・クルもわかってはいても、実際の自分の家や故郷の悲惨な光景を見てがっくりと肩を落としている。


ただ幸い集落民は噴火前に避難できていたので、全員無事だった。

この集落にも時々様子を見に戻っては来ているようだ。足跡がついている。

クルマンタから少し東に行ったところで、人と行き会った。

そのうちの一人が声をかけてきた。


「カント・ヨミ・クル様ではないですか?ご無事でしたか?あのあと皆で心配していたのですよ。」

どうやら、もとここの集落民のようだ。

カント・ヨミ・クルは今は塔の集落で世話になっていることを説明して、他に集落民にも、かつての呪術師仲間にも無事を伝えて欲しいとその集落民に頼んでいる。


あの大噴火のあと、西のピナイ方面やアニの山間部で分散して移住したが、いずれ戻りたいと、様子を見に来ているらしい。

ただ、この状態だと元に戻るのにはまだまだ時間がかかるだろう。

彼らからの情報でこれでも東側と比べたらまだ良いほうで、東側はまったく人が立ち入れない場所になってしまったという。

どこまで東が壊滅なのか?

沿岸部までだろうか?


簡単に情報交換をする。

東のことは詳しくわからなかったが、故郷のある岩手のほうの情報がわかった。

以前、アッピより南の交易ルートが閉じたのは、大規模な噴火による山体崩壊ではないかと情報がもたらされたが、山体崩壊はもっと昔に起きたことで、今回起きたものではなかった。ただ、地震が頻発して、また再び起こるのではないかという不安が、デマとなって広がったという。

十和田湖のこともあり、不安が広がりやすい状況だったのだ。人々も疑心暗鬼になり、集落間の友好関係が崩れて交易ルートとして機能しづらくなったという。

昔の山体崩壊の影響は今でも残っていて、狩猟・採集も十分ではなく貧しいため、交易団もあまりルート回復に熱心ではなくなったという。

クルマンタの元集落民も、ここもそうなってしまうのではないかと心配になってきているという。

緑が戻れば多少は希望が持てるんだが・・・。

噴火の脅威はその後も長く人々を苦しめるのだ。


津軽平野にでて岩木山を眺めると、この山も噴煙を上げている。この山は、十和田湖ほど大きな噴火はないはずだから近づかないかぎりは大丈夫だろう。


駆け足の視察旅行だったが、十和田湖のこれ以上の心配はないし、とりあえず、復旧・復興に全力を挙げて行こうと思う。


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