113.帆掛け舟
こちらに来て、最初に試すのは舟に帆を付けてみる。
海峡では少し自信がなかった。
陸奥湾なら、波も穏やかで多少流されてもどこかの岸にたどり着けるから、帆の推進力を試すのにはいいと思った。
幸い、完全な追い風ではないが、北西の風なら南に向かう舟にちょうどよさそうだ。
のちのち交易で使う想定で荷物を多く乗せて、念のため漕ぎ手として俺とカント・ヨミ・クルとあと2人の若い男を乗せる。
3人の巫女たちは息子を連れて歩いて向かわせる。
帆はあんぎん織りで作った反物を3枚縦に使う。
帆の上と下の横木の両端にはロープを結び付けて向きを変えられるようにしてある。
帆の取り付け準備などで昼近くまでかかったが、無事出航した。
思ったよりスピードが出る。
岸となるべく平行に走るように帆の調整が難しいが、大成功だ。
航海術が未熟だからいきなり海峡を帆を使って渡るのは難しいかもしれないが、交易拠点集落から塔の集落までの輸送には十分な成果だ。
すぐに今朝出発した人たちが海岸線近くを歩いているのが見えた。
あっという間に追い越して、この分なら今日の夕方前に塔の集落に着きそうだ。
カント・ヨミ・クルも漕ぎ手として乗った男たちも驚きと歓喜に沸いている。
最後に塔の集落の方向の南東に船首を向けて、真後ろから風を受けると舟のスピードはものすごく上がった。
ただ、帆柱がガタつき始めた。
もっと構造を考えないといけない。それか帆を1枚畳んで風を受ける面積を減らすかだ。
あとは、戻るための風の予測と操船技術の確立だ。
三方を海に囲まれた陸奥湾なら、外洋や海峡よりは安全に航行試験や訓練ができそうだ。
塔の集落にはまだ明るいうちに到着した。
徒歩で向かった者たちは明日の午前中ぐらいの到着だろう。
一足先に入った俺は塔の様子や大堂の様子を見て回る。
大堂はきれいに整理されていてる。
塔もきれいに掃除されて、いつでも使える状態になっている。
留守の者たちが、降灰の影響でダメそうな大木を切り倒して、塔のスロープの下など雨があまり当たらないところに保管しておいてくれた。
優先的に舟を作ろう。
帆のある舟を使えば、陸奥湾沿いの集落との交易も容易になる。