109.俺もほんとは古老
子供が生まれて、いろいろバタバタしていたが、北のモシリ(北海道)5度目の冬も無事過ごすことができた。
最終の交易連絡では毛皮の取引はうまくいったらしい。黒曜石の新規の販路開拓も琥珀交易ルート上にある集落との取引に使えたので、過剰在庫は心配ないとのことだ。琥珀交易も今年中に準備が整い来年の夏には本格的に動きはじめるだろう。
南方産黒曜石はかなりの量を北海道に渡る前に交換できたので、こちら側の黒曜石の交換率に影響はないだろうとのことだ。
秋の最終便で毛皮も十分な数を南のモシリ(青森)に送った。春先も冬に獲れた分の毛皮を第1便で送る。昨年より2倍近い取扱量になる。
まぁこれくらいで、微調整すれば問題ないだろう。
黒曜石も産地がいろいろあったほうが安全だ。
その意味でも、あまり南方産の黒曜石の価値を下げるのも、入荷量が減るので問題だ。今と違って大量流通はできないから、価値が下がれば、交易に来なくなるだけだ。その状態で火山噴火や災害で北方産の入荷が止まれば大変なことになる。
向こうにとっても、リスクを冒して北海道まで渡るより、その手前で毛皮と交換できるのだから多少交換率が悪くても利益は出るはずだ。
報告があった。アッピの先の南に向かうルートが火山噴火で閉鎖中という情報があったが流言飛語だったことがわかった。実際には火山噴火は起きていない。ただ、そちら方面の集落では狩猟・採集がうまくいかず、交易路としては使えなくなっていたということらしい。
今年の春分の祭祀はイアンパヌが祭祀長として、全てを行うことにした。もちろん、1人では大変なので、準備は俺たちがすることになる。同時に巫女の見習いを2名選び出させて準備の手伝いをやらせる。
俺たちが南のモシリ(青森)に戻ると、氏族の繋がりとしては、カンナアリキ首長に属することになるので、祭祀の報告も行う必要があると思う。
イアンパヌが祭祀の準備ができたので、カンナアリキ首長に報告に行くというので、俺も同行することにした。
「オホシリカム様がわざわざ来られなくても、こちらから出向きましたのに。」
「いえ、我々が向こうに戻りますと、集落に残った者たちはカンナアリキ様を頼るしかありませんから。」
「もう、戻られるのですか?」
「いえ、次代を育てるために、今年は若者に全部やらせて、来年の春分を見届けて、最初の交易船とともに向こうに戻ります。」
「長老様たちもみな戻られるのですか?」
「いえ、アヂ・ノ・チプ(黒曜石の船)は、黒曜石だけでなく交易品全般の監督として置いていきます。狩猟・採集系のアリシ・ウパシは青森に戻りますが、このイアンパヌの弟のニシテレがとても優れていまして、アシリ・ウパシの代わりにこちらで長老をさせようと思っています。」
「そうですね。塔の一族の長老様たちもそろそろ古老として次代の育成に入らなけれbいけない年齢になってきてますからね」
そうか、この世界は寿命が短い。だから40歳を過ぎればもう古老の仲間入りだ。早く次代を育てなければいけないが、噴火とかいろいろあって皆に頼り過ぎていた部分も大きい。青森に戻ったら、長老たちの後継の育成を確認してみよう。意外とちゃんとやっていそうな気もするし、でもアシリ・ウパシはやってなさそうだな。
ただ、俺も本来ならとっくに古老なんだけどな。