108.名付け
北のモシリ(北海道)に移住して4回目の冬だ。
俺がこちらに転生して5回目の冬。
転生したての頃15歳に見えた外見は今もかわらない。
やはり不死なだけでなく不老のようだ。
その時点で、ここは現実離れした異世界だと判断したいのだが・・・。
昨年授かった神謡も超常な異世界としか思えない力だ。
ただ、神謡で得た知識はそれを否定する根拠にあふれている。
もし、過去の日本だったとして歴史を歪める行為はどうなるのだろう?
歴史が変わる?
強制的に何かが介入して歪みを補正する?
南のモシリ(青森)に戻ったら何か試してみようと思う。
それは、以前から心の奥底に秘めておいたものがある。
でも、その前に、俺に期待している集落、一族の期待に応えてやりたい。
火山噴火の脅威から無事逃れたというだけでなく、これからの交易でも集落、一族の優位性を保ち続けていきたいのだ。
何も大儲けしようというのではない。実際、貨幣もないし、物を余らせてダメにすることは悪しきものだという考え方もある。
程々にでも確実な交易上の地位を保ち続けるのが俺の目下の仕事だと思っている。
冬至が終わって、現世なら旧正月辺りだろうか?冬至と春分の中間ぐらいで、カンチュマリにつわりがはじまって子供ができたことがわかった。もちろん俺の子供だ。この時代は出生率、生まれても生存率が高いとはいえない。嬉しさよりも不安のほうが大きいが、神としての務め以外にも父親としての務めもしなければいけない。
幸い、残りの巫女2人も生まれてくる子供は自分の子供と同じように大切に育んでくれるそうだ。この2人が特別なのではなくて、この時代の家族では当然のことで、母親が複数人いたり、父親が複数人、両方複数ということもあるくらいだ。それだけ、子供は貴重でみんなの大切な宝物なのだから。
そういうことで、この冬は特に防寒と栄養のある食べ物にこだわった。
もともと木の実系が多くてそれが主食に近い一族だったが、地元の北海道の集落に倣い、肉と魚を中心の食事に変えた。もちろん、木の実も大切な栄養源だ。
カンチュマリには山葡萄酒のアルコールを飛ばして酢を作って、それでソースを作って肉を少しあっさりした感じの味付けにして食べさせた。
夏の交易も俺は出かけないで、カンチュマリのそばにいることにした。
アンヂ・アンパラヤには事情を話してもらうように、こちらの交易団のアヂ・ノ・チプに頼んでおいた。
アンヂ・アンパラヤからは悪霊を払うナイフを母子にと贈ってくれた。
秋の真っ盛り。
紅葉の美しい季節に男の子が生まれた。
母子ともに元気だ。
同じ物見の氏族の北のモシリ側の首長のカンナアリキもお祝いに駆けつけてくれた。それだけでなく、ピパイロ首長も険しい峠を越えてお祝いに来た。
2人には返礼に琥珀の首飾りを贈った。
これは夏の終わりに、まだ本決まりではないが琥珀の産地の集落と友誼を結ぶことができて、直接取引ができるようになるかもしれないとの知らせが来た時にもたらされた品だ。
やはり、来年春には戻らなきゃいけないか。
子供が1歳過ぎてからと思うのだが・・・。
そう考え事をしていたら、アヂ・ノ・チプから2年後の春で大丈夫ですとのこと。
琥珀の産地の集落とは友誼を結べても、途中の集落間の道路が交易路としてまだ機能していないので、交易団として派遣できないという。道が繋がっていても誰でも通れる道になっていなければ交易路として使えないのだ。途中の集落の信頼を得て、途中集落にも益があると思わせなければ交易団を派遣できないからだ。
その作業は、向こうの交易団でも、俺たちだけでなく、利益があると思う複数の氏族の交易団が共同で行い、時間がかかるという。
ならば、まだほんの少しこちらでゆっくりできそうだ。
子供の名前はかなり悩んだ。
名付けにはいろいろな考え方がある。
子供に悪霊が寄り付かないように、わざと悪い名前を付けることもある。
クソタレとか汚物とかいう意味の単語を付ける親もいれば、最初からキラキラネームを付ける親もいる。
意外にカムやカムイという神を表す言葉を名前に付けることも多い。
一種のキラキラネームだろうか。
ちなみに姓はないが、親の職業というか専門名が事実上の姓になっている場合もある。
子供が違う職業に着けば、もちろん違う名前になる。
改名は意外に普通に行われるでの、子供の名前はそれほどこだわらないのが普通だ。
ただ、絶対的なルールがある。
それは、同じ集落、もしくは隣接する集落で似た名前はいいが全く同じ名前は付けないということだ。交易系は取引関係も含めて同じ名前は付けることができない。だからおのずと悪い系の名前かキラキラネームしかなくなる。普通の名前は早い者勝ちで使われている可能性が高いからだ。
チュプカムイ(太陽神)にした。まぁ本人が俺のあとを継がなければチュプ~と別の名前になるだけだ。というより俺は不老不死だから息子があとを継ぐということはなさそうだが・・・。