105.新しい交易に向けて
こちらに来た、交易系長老のアペ・ルイ・ト・ヒ(燃える土の翁)、ミツ・ソ・ピ・ヒ(緑青の石の翁)、アカル・ヒ(瑪瑙の翁)の3人とその配下たちは、すっかりユペツ(湯の川)温泉が気に入ったようだ。
集落から歩いてすぐの温泉というのはあまりない。
頻繁に風呂に入りにいっている。
青森でも温泉が欲しいと言っている。
神の力でどうにかして欲しいとまで言っているが、温泉がある神々の白い峰々(八甲田山)はこの時代まだ噴火リスクが高い。
岩木山も絶賛火山活動中だ。
もとコロポックルのイアンパヌ(賢者)は、カンチュマリ巫女とレブン・ノンノ巫女から巫女の仕事と祭祀の運営について学んでいる。過去の知識は5000年分持っていても、それはコロポックルに繋がる1系統の歴史なので、俺たちの集落のそれとは違う。自然も主に彼女たちは北方系統だから道南の函館周辺の気候とは違うので、多少新たに知識を得ていかないとならない。
ニシテレ(頑丈)のほうはアシリ・ウパシも舌を巻くほどの狩猟の腕前だそうで、狩猟・採集系の長老を任せてもいいくらいだという。彼は神の歌を継げる容量はないとされているが、俺たち比べたら何倍もの狩猟の知識を持っていた。俺たちの帰ったあとに長老になってもらうのにはまったく心配はないだろう。
新しい交易に向けて、春一番の毛皮取引では、南方産黒曜石より安い、つまり少ない毛皮で赤井川産黒曜石を放出した。他にヒスイ、南方の貝殻、アスファルト、漆工芸、琥珀など様々な商品で毛皮を手入れて、それをアペ・ルイ・ト・ヒ(燃える土の翁)、ミツ・ソ・ピ・ヒ(緑青の石の翁)、アカル・ヒ(瑪瑙の翁)の3人とその配下たちに託して海峡を渡らせた。
幸い10人の新しい交易系に従事する若者が入ってきたので、春の狩猟・採集への影響を最低限にとどめながら交易に使う品物の確保ができた。
とはいっても、集落に人が増えた分の食糧の調達、管理は意外に大変だ。
配分の期間と量と在庫、入庫、出庫などやはり文字や数字が必要になることがたくさんある。
余らすこともあまり良くないのだ。
余らすということは、食材を無駄にすること、腐れば悪い魂、捨てなければいけない事態は悪い象ということになり、それを許したということは集落全体が悪い霊に憑りつかれているということになる。対外的にも集落民への精神衛生上もよくないのだ。