1.はじまりは土と炎でした
西からはじまる日本の伝奇、伝説は数多いけど、北からはじまるファンタジーと歴史が交錯する奇譚を綴ってみました。最後に、異世界なのか?パラレルワールドなのか?過去なのか?それが明らかになるかならないかはお楽しみに。
気が付くと咽るような煙の中、暗い何かの大きな建物の中で目を覚ました。
突然、奈落のような黒い霧が足元に現れたかと思うと、グニャグニャと火炎のような触手のような土色の何かが蠢く中を落ちていく。途中、神主のような狩衣を着た者、天女のような羽衣を着た者、聖徳太子のような恰好をした者、そして神話の神々のような美豆良を結った大王?そのあといろんな装飾を身に着けた者たちがにこやかにこちらを見ながら見送っていく。そのたびに、何か声を掛けられそれは頭の中に何かが差し込まれるような感覚で頭痛がひどくなっていく。
「ゲホゲホッ」
暗い中目を覚まして起き上がろうとすると、周囲は炎に囲まれていた。その炎の向こうには落ち始めたときに見たグニャグニャの意匠の土でできた壺。そう今思い出すと、縄文時代の火焔型土器そのものだ。それが16個俺の周りに置かれて手前の炎に照らされてグニャグニャと蠢くように見えている。
突然、炎の向こう火焔型土器のその先に恐ろし気な刺青が顔中に施された老婆が奇声をあげた。
「おぉー、儀式は成った。我らが地にも神が下りられたー」
突然、土器の後ろから多くの人が現れてこちらを覗いている。
「我らが神は背が高いのう」
「いや足が長い」
「神の世界からいらしただけあって素晴らしいお召し物よ」
「黒いお召し物とということは冥界をつかさどる神でしょうか」
「でも、髪は短いですね」
他にも口々にいろいろなことを言っている。
俺は立ち上がると、まわりを見渡した。
8つの炎の周りに16個火焔型土器、少し間をおいてそれを取り囲むように大勢の人びとが膝立ちになっていたが、慌てるように周りにいた人々は全て平伏して動かなくなった。
俺は祖父の葬式の帰りだった。喪服のままここに連れてこられたらしい。
真っ先に言葉を発した老婆がいきなりこちらを仰ぎ見ると
「どうか、どうか、永遠にこの地の民を守り導きたまへ」
と叫ぶと突然血を吐いて倒れた。
それでも周りの人々は地に頭を擦り付けて平伏したままだった。
やがて平伏しているものの中から小柄な者が這いずるように少し前にでてくると、両手でビアカップ大の土器に入った何かの液体を捧げるように差し出してきた。
炎の照らす周り以外は漆黒に見えて、その液体も立ち上がる自分よりも下で燃える炎のちょうど逆光になって真っ黒い液体にしか見えない。
俺はそれを両手で受け取り少し香りを嗅いで少しだけ口に含んでみた。
かなり酸っぱさも甘みも濃い、そうこの味は山ぶどう。それが僅かにアルコールを帯びたような鼻に抜けるような芳香。なぜか突然強烈な喉の渇きに襲われて、それを一気に飲み干すと、急に意識が遠のいた。