結紀美
この心の隙間に、揺るぎない何かを与えてくれたように感じた。一体何だろうか。一口でまとめることは不可能だ。でも、ただ1つだけ分かることがある。
それは、私が探していたものは、この温かく、たくさんの奇跡が重なることでしか生まれない、この感情だったということ。
自分を誤魔化し、疑うことを選び、そんな自分を責めては、突き刺さるような胃と心臓の間の溝が痛む音が聞こえる毎日を過ごし、不思議とその感情がこれからの活力になってしまう程、荒み、掠れていた。何も聞こえない、見えない、感じない、フリをしていた私に、「一筋の光」というよくある表現が丁度良いような、そんな輝きが訪れたことを、生涯忘れることはないだろう。
温厚で可愛らしい佳美と、大きな優しさで溢れた幸夫の元に舞い降りた天使。それが、結紀美だ。
佳美と幸夫の両親もまた、愛情深く、そして裕福で、容姿端麗。結紀美は恵まれた環境に産まれた。
幼稚園に入園するまで、佳美は常に結紀美から離れず、ずっと一緒に生活をしていた。結紀美は、母と遊ぶことが何より楽しく、初めは幼稚園を拒んだが、行き出せばその天真爛漫なハツラツとした明るさで、誰よりも友達が多く、一際目立つ子供であった。結紀美は、幼稚園のママ友に母がいじめられていた事など、何も知らず、明るく卒園をした。
この時、結紀美の人生は歪み始めた。そして、母である佳美の人生、父の幸夫の人生も、グルグルと渦を巻き始めた。
「ゆっちゃん、朝よ、幼稚園の準備をして〜。」
結紀美は家や幼稚園で、ゆっちゃんと呼ばれるようになった。近所に住む同い年の美奈子とは、親同士も仲良くするほど、近い関係で、幼稚園も一緒に通園していた。美奈子は、結紀美のように真っ直ぐな眼差しで人と話せるような、そんな強さとはかけ離れた、特に目に止まらない子供だった。
奈美子の母親は、それを感じた日から、周りのママ友と共に佳美を仲間外れにするようになり、根も葉もない噂が流れ始めた。
佳美は結紀美を抱きしめ、泣く日もあった。嫉妬というものから始まるのだろうか。人と人の関係は、砂で作った城が波で一瞬にして消されてしまうように、簡単に破壊されると、佳美は思った。そして、結紀美の笑顔の為だけに生きることを思った。母として、全てを決意したのだ。これからへの覚悟でもあるその決意が、結紀美の数年後の寄り所になることを、まるで分かっていたかのように思うほど、強い母となって行った。
佳美は、自分の経験上、容姿が周りより長けているだけで、いじめというものの対象になることも、嫉妬の的になることも分かっていた。しかし、結紀美の人生に、大きな地震のような、何年も忘れられない痛みを残す出来事が起こることなど、想像していただろうか。




