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8話 出会う2人

「よるな触るな近寄るな!」


さて、今日も今日とて俺は相変わらず柏木に嫌われている。


「なんで私にかまうんだよ!」


「まぁ面白いから」


「私は面白くない!」


実際柏木は面白い。無視を一応しようとするのだが、あのシロクマのことを言うと意地でも反応してきて、割と突込みをくれる。


ただそれでもきつい性格が災いしてか、男子にも女子にもいまいち人気がない。もったいない気もするが。


「ん?」


柏木と戯れた後、席に座ってふと机の中に手を入れるとなんか感触があった。


「手紙、どれどれ」


俺は特に意識しないで、手紙を開く。


『あなたに伝えたいことがあります。放課後に体育倉庫前で待っていてください」


………。ん? これはいわゆるあれか? ラブレターか?


だが、ラブレターにしては色気がない。いわゆる便せんに入ってなくてそのままだし、宛名も差出人の名前もない。


とは言っても、内容は無視できるものでもない。


「なにそれ?」


俺の後ろから柏木がのぞいてくる。おお、ちけぇ。


「なんか知らんが入ってた」


「ラブレターじゃん」


「やっぱそうか?」


「いいじゃん。これで彼女できりゃ、もう私には絡んでこないだろ。ちょうどいいじゃん、よかったな」


そして橘は満足そうな顔をして教室を出て行った。




「どうだろうな」


俺はジョニ男にも相談した。


「いたずらにしては、直接机に入れてるしな。でも内容は確かにそれだな」


「だろ? こういう経験ジョニ男は豊富だし、アドバイスくれよ」


「アドバイスも何も、とりあえず行くしかないだろ。いたずらの可能性もあるが、心当たりもないだろ」


「……、まぁねぇけど」


「万が一かなりおっちょこちょいな子の可能性もあるし、暇ならとりあえず場所にだけ行ってこればいいんじゃないか」


「そうかなー」


俺はもてたこともないし、こういうこともない。というか、ここ最近の傾向を考えるとろくなことにならない気がしない。


でも暇だから行こう。



「さてと」


グラウンドを見渡し、体育倉庫の前に行く。まだ見た感じ人はいない。


うーむ、なんか知らんがドキドキしてきた。


この空気もある意味たまらんな。こんなのを頻繁に受けてたジョニ男はうらやましいやら、気の毒やら。


「……こねぇ、そういえば時間指定もなかったしな」


今日というのは書いてあったが、時間がわからん。


そろそろ日が沈んできて寒くなってくる。


でもなぁ……、万が一があったら楽しみだし……。


コツコツ。


静かな足音が後ろから聞こえる。


これはだれか来たのか。緊張する。俺は頬をたたいて気合をいれ、振り向いた。


ちょっと緊張してまだ俺は視線を上げることができていない。


俺の視界に入るのは、まだわずかに日が差しているので、長い影だけである。


そして少しづつ顔を上げていく。


すらりと伸びた白く長い脚、風にたなびくスカート、徐々に徐々に顔を上げる。


さらにくびれた腰、とても大きな見覚えのある胸部……? 金髪……?


その時点で俺はその相手がだれか分かった。


俺を嫌っている女子の1人、橘である。


しかし、相手がわかったのに、俺にはわからないことが増えた。


「……これは橘が書いたのか?」


「ええ」


そしてうなずく。だが、俺は絶対に好かれていない。何か理由があるはずだ。


呼び出すだけなら、別に直接呼ぶこともできただろう。


「あなたのことをここ最近見てたわ」


「一応聞いとくが告白じゃないよな」


「は? 馬鹿じゃないの」


「はい」


すごい目で見られた。こええ。


「私はあなたに見られたことをいまだに根に持ってるわ」


「俺には忘れろって言ったのにか?」


「なんでまだ覚えてるの!」


「むしろなんで橘は覚えてるんだよ」


この話題を蒸し返すたびに損してるのは橘だと思うのだが。


「まぁいいわ。とにかく忘れなさい。それでね。私はあなたのことを毎回英語の成績を邪魔してくる存在だと思ってた。だから名前も知ってた」


「ああ」


「それでこの前のことがあって、もうあなたのことは大嫌いになったわ。でもね」


「でも?」


「成績は英語がずば抜けていいけど、他も悪くはない。友人もそれなりにいて、女子とも普通に話してる。

あなたのそばにいる……男の子の友人との兼ね合いで女子でも結構知られてるけど、あまり悪い噂は聞かない。学校生活も遅刻も欠席もない。むしろボランティアに参加して、部活もないから、先生に頼まれごとをしても断らない。そして、山本先輩にも気に入られてる。私の感情と学校でのあなたの評価がいまいち合致しないの」


「ああ、なんか悪いな」


橘からの相変わらずの文句なのだが、内容はほめてくれているので恥ずかしい。


「でも、彼女を欲しがっているという噂は聞いたわ。それでこれを使えば、だらしない姿を見れると思ったのに、全然そんな感じじゃないし……、もっと隙を見せなさいよ!」


橘が意味の分からないことで怒ってきた。


こいつ割と馬鹿なのか?


「はっ、もしかして、先輩と何か密接な関係に? でも彼氏はいるから……、あっ、生き別れの弟とか! それで先輩がいろいろあなたに便宜を図ってくれて、妙にあなたをかばうのもそれが理由ね。ならつじつまがあうわ」


あ、こいつ馬鹿だ。


「その反応、さては図星ね! 驚きで声も出てないじゃない!」


ある意味では驚きで声が出てないけどさぁ……。


「はぁ……」


「そんなに頭を抱えなくても大丈夫よ。私は人のプライベートには口を出さないし、このことはだれにも」


「いや、俺と山本先輩全然関係ないし。あまりにも的外れなことを言われすぎて言葉にならなかった」


「ち、違うの?」


「かすってもない」


「となると、何か山本先輩の弱みを知ってて?」


「あの人に弱みなんかねぇよ」


「あ、じゃあ許嫁とか?」


「あの人彼氏いるって言ってんだろうが。あと山本先輩から離れろ。俺とあの人はただの先輩後輩の関係だ。そして、おそらく卒業したら関係もなくなるわ。携帯も知らないし」


学校以外であの山本先輩との絡みはない。なので、付き合いは割とあるが、ラインすら知らないのだ。


「いいから弱みを見せなさいよ~。私だけ見せてあなたは大体いい評判なんて不公平よ~」


全部論破したら、半泣きになってしまった。


「別にいいだろう。評判なんて」


「あなたの悪い印象を持っている人が1人もいないと、私がただわがままみたいになってるもの……」


なんだよその後ろ向きな意見は。俺の悪い印象がないなら、その認識を改めるというわけにはいかんのか。


とは言ってもとにかく出会い方が悪すぎた。


白馬の王子様発言を考えても、おそらく男女関係とかにある程度理想を持っているのだろうし、俺の覗きが事故とはいえショックが大きかったのだろう。


「えーとさ、本当にあの日のことは悪かったと思ってる。もう俺は絶対にこの件は口にしないし、なんとかならないか?」


「えー、でもあなたのこと嫌いだし」


「……あ、あまり嫌い嫌い言わないでくれ」


橘ほどの美人に嫌いを連呼されると割とメンタルにくる。


ガタン!


「ん?」


「誰!?」


俺と橘が沈黙していると近くに何かが倒れる音がした。


「…………」


「え? 柏木?」


また俺は驚いた。まさかの柏木。俺を嫌う女子の2人目である。


「……ごめん。あんたのことを好きな女子がだれかと思って……、部活が終わったらあんたを見かけたから……」


柏木が妙に気まずそうな顔で俺を見てくる。


「私はあんたのことは嫌いだけど、……さすがにふられる瞬間を見るのは、ちょっと悪い気がしたわ」


あ、なんか誤解してる。さっき橘が嫌いを連呼したから……。


「ち、違うわ! 告白とかじゃない! そ、それよりもあなたは誰?」


橘が慌てて否定し、柏木に尋ねる。


「私? 私は柏木梓よ。あなたこそ誰?」


「私は橘=Cシャーロット=恵梨香よ」


「ん? シャーベット?」


聞きなれない単語が聞こえたが、自己紹介でアイスみたいな話が出てきた。


「シャーロット! というかあなたには言ってない!」


そうか、あのcはシャーロットっていうのか。これ幸いにも俺は橘のCを知ることになった。すごく見た目に合う名前になったな。でも俺の耳にはシャーベットにしか聞こえなかった。どうせ俺がシャーロットと呼ぶことがないだろうし、勝手にシャーベットと認定しよう。


「それよりあなた、この桐林くんを嫌いって言ってたわよね」


「まぁね。私はこいつのこと大嫌い。公園で押し倒して、欲望のままに胸を揉んできたの」


「やっぱり! 私もね、桐林くんに無理やり着替えを除かれたの!」


「なんだって! やっぱりこいつはけだものだ! 選択授業も私をストーカーしてきて!」


「そう、しかも会長の弱みを握って味方につけてるのよ!」


「気が合うわね。私のことは恵梨香でいいわ」


「私のことも梓でいい。こいつ割と回りの評判悪くないんだ。だから悪口を言っても誰も同情してくれなくて」


「分かるわ。やっと同士に会えたわ」


「待て、本当にことなら言ってもいいが」


「「黙ってて!」」


「はい」


こうして、俺の悪口をきっかけに1つの友情が生まれた。


どうにも府に落ちない。誇大広告ならまだしもデマを言うのはNG。


















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