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4話 ミラクル

「というわけで、俺に橘はやっぱり難易度が高かったな」


昨日の出来事をジョニ男に話す。


「それは失敗なのか? 話を聞いた感じじゃ、ラッキースケベをしたのに許されるし、名前知られてるし」


「え、橘は誰でも名前を知ってる訳じゃないのか?」


俺はジョニ男の横にいるから、ある程度顔は知られているが、名前までは知られていないことは珍しくない。橘が知っていたのは、学年一の秀才だから皆の名前を知っていると思っていた。


「ああ、むしろ知られていない生徒の方が多いと思うぞ」


「なんで俺は知られてた?」


「そこまではさすがに分からん」


だが、あの感じだとあまりいいイメージじゃない。その理由が分からんと難しいな。知られていないよりは知られているほうがいいだろうが、悪い場合だってあるだろう。


「だから、橘じゃない女の子にも挑戦しよう」


「橘はキープか?」


「別に友人段階ならいいだろ。橘もいきなり付き合おうとまでは考えて無かったし」


「まぁお前がいいならいいが」




「さて、どうするか」


俺は町に出た。俺は休みに特別な用事が無い限りは外に出ないが、前向きに動くためには外に出なければならない。


俺はこの町に生まれこの町に育った。この町は好きだ。


昔は田舎で狭い路地や下町情緒あふれる町だったらしいが、俺が生まれた時には、都市開発計画で町は一変した。


埋め立て地を増やして土地を広くし、各種レジャー施設が大量に新設。

道路も広くなってアスファルト舗装され、タワーマンションも増えまくって、若者の取り入れに成功。


初めは反対していた地元住民も、この成功には気を良くし、今は老若男女が平和に過ごす町として有名になっている。


特に埋め立て地に現れた大通りは、映画館、オープンカフェ、レストランと大抵何でもそろい、地元民以外でも注目される目玉スポットだ。


そして、夜景が綺麗で夜にはカップルの溜まり場になる。明るいので、夜でも治安は良く、学生にも人気がある。告白スポットとして。


俺には縁が無かったが、もし俺の作戦が成功すれば世話になるかも知れない場所。ロマンだなー。


と、いうわけで、カップルのいる空気がウザいなと思いつつ、出会いを求めるためにこの場所は必要ということで我慢した。




「休憩だ」


休みを費やして、町を改めて眺めるわけだが、これが徒労にならないといいな。


しかし割と広い町だ。朝から歩いて昼過ぎまでかかるとは。腹へったしパン休憩だ。


うーむ、うまい。


コンビニのパンではなくベーカリーパン×4だ。


最近はコンビニのパンも実にうまいが、やはりパン屋のパンは美味い。


ふわっとしたカレーパンに、まだ卵の暖かい卵パン、ウインナーがジューシーなパン、そして、お店の自慢のクロワッサン。


俺はパンが好きである。朝ご飯でもまず米は食べないし、昼も大抵パン。夜でもパンを食べることがある。


まさにパン人間と言っても言い過ぎではない。大人になったらパン大臣になろう。


まずはお気に入りのカレーパン。味がくどくなくて実にいい。油分の少ない甘口のカレーはあっさりしている。


さて、俺が休んでいるのは真ん中に噴水がある公園。花と木々にあふれて、とても静かな公園だ。都会化した町のなかで、ここだけとても自然を味わえる。


「うーむ、しかしここもカップルか……」


昼の時間帯だし、別に迷惑には思われていないだろうが、ちらほらカップルがいる。分かっていてここに来たがやや居心地という点では悪い。


男の人かっこいいな……。やっぱりイケメンは得か。


改めて見てみると偶然かもしれないが、かっこいい人ばかりだった。


ジョニ男は癖は強いが、見た目は文句なしのイケメン。その後どうなるかは別として、やはり前提条件として、見た目は重要だ。


いくら中身が良くても、そもそもそこまで踏み込んでもらえねば話にならない。


そういう点では、ジョニ男の横にいることで、俺も多少中身を知ってもらえていることもあるから、損ではない。ただ問題は、ジョニ男の内面の癖を無視できるほど、俺のスペックが足りていないことだ。


「こーら! そっちには言っちゃ駄目!」


たとえば、あの噴水の近くで犬と戯れる少女。かなり可愛らしい。あれは橘といい勝負じゃないか?


しかしでかい犬だ。あれは確か、グレート・ピレ二ーズとかいうんだっけ? いや、あれはシロクマだ。そうに違いない。色の白い大きな生物なんだから。今からあいつをシロクマと命名しよう。


ハーフである橘と比べると身長は低く、手足もやや短めで顔も童顔だが、文句なしで美人。スタイルも良い。良く見ると、ちらほら男の注目もある。高い位置で黒髪をツインテールにしていて、それがゆらゆらと揺れるのが実にかわいらしい。


うーむ、俺がイケメンならあれくらいの女子でも話しかけてもらえるし、俺も話しかけにいけるのだが。


「あのー」


校外だと、相手の趣味もなかなか分からんから、俺の趣味に相手が会うか、向こうが合わせてくれるかも問題だ。ナンパはリスクも低いが、成功も難しいといえば難しい。そう考えるとやはり今は学校内で挑むのが妥当……。


「あの!」


「あ、はいはいなんでしょう?」


おっと、ついぽけーとしてて、話を無視してしまった。何だ?


「!?」


まさかの遠めで見ていた美少女が俺に話しかけてきた。何だ何が起きた!?


待て、冷静になれ。話しかけられたからといって、必ずしも好意的な意味とは限らない。


どう考えても、こんなに可愛い少女が初対面の俺に話しかけてくれるわけがあるのか? いやない! 二重否定! 俺は前向きに物事を考えるが、バカではない。浮かれないようにはしなくては。


「…………あのー」


ほら、良く見てみると美少女の顔はいまいち浮かない顔だ。やはり、これはきっと、俺の座っているところが、この子の特等席とか、俺が見てたのがばれたとかそういうのだ。そうにちがいない! そうと決まれば謝るのが先決だ。特に理由も分からないのに謝る。うん、冷静だ。


「す、すいません!」


ん? なぜ美少女が謝る? あ、きっとこの子はいい子か、俺に申し訳ないけどここからどいてといってくれるんだ。ありがとう。きっと君は席を立った俺に、笑顔を向けてくれるんだね。


「うちの子があなたのパンを食べちゃってます……。ごめんなさい。止めれなくて……」


そういわれて俺は右に置いていたパンを見る。


「ぎゃぁぁぁ! 俺の昼が!」


ベーカリーのパンはまぁまぁ高い。カレーパン以外の3つで648円(税込み)がシロクマに食われてしまった。



「本当にすいません……」


「い、いや、別に気にしないでいいよ」


パンが食われたのは痛いが、いわゆる美少女とのきっかけを作り出すには安い金額ともいえなくもない。648円で女性と会話できるなら、おそらくみんなやるだろう。


「きゃんきゃん!」


「あ、こら!」


そしてシロクマが俺になついてくる。でかい犬だが、毛並みはよく、あまり不潔感がない。つーか普通に可愛い。


「この犬は確か……、グレートピレニーズだっけ?」


「はい、そうです」


「名前は? やっぱシロクマ?」


「やっぱりって……、確かに見た目はそれっぽいですけど、名前はレスターです」


レスター……。いや、こいつはシロクマだ。そういうことにしよう。


「でもすごいですね。この子が家族以外にここまで懐くなんて……」


「そうなのか?」


もう俺に懐きすぎて、半分くらい埋まってるぞ。俺が。


「はい、グレートピレニーズは、飼い主には忠実ですけど、他人には攻撃的になることが多くて、この子もその通りなんですけど……。元々番犬としても優秀ですから」


こんな隙だらけの番犬は俺は知らない。


「しかし、危なかった。俺がカレーパンを完食してたから良かったけどさ」


俺の食ってたカレーパンには、犬にとって害のあるたまねぎやそのエキスが入っていた。他の3つはそうではなかったので、良かったが。


「すいません。この子普段はこんなことないのに……」


「別に食いたきゃ、あげたのに。堂々と来いよ」


俺はシロクマの頭を撫でる。シロクマは目を細めて実に気持ちよさそうだ。反省してんのか? 別に怒っては無いが。


「犬は好きなんですか?」


「そうだな。俺の家族が犬好きで、小さい頃から犬はずっと家にいたな。俺が世話をすることは少なかったけど、犬のいる生活が俺にとっては当たり前だな。小さいときは柴の雑種がいて、今はチワワがいる」


「柴犬は言うことを聞いてくれていい犬ですよね。チワワは我がままですけど」


「チワワは確かに全然聞かん。小さいから記憶力も低いんだろうな」


ん? 何か妙に会話が自然だな。犬トークのおかげで会話も途切れないし、多少途切れてもシロクマのおかげであまり気まずくない。


そうか、ここに俺の運命はあったのか。ちょっと前の俺を殴りたい。ちゃんと現実世界にも運命の出会いはあったのだ。



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