1話 同じ笑いものなら草食系より肉食系で
「あー、彼女ほしい! というか、なぜいないし」
とまぁ、いきなり叫んで申し訳ないが、心の中でももう1度叫びたい、なぜ彼女がいないのか。
理由は正直に言おう。世間が悪い。
人のせいにしてるわけじゃない。俺が悪くないというわけでもないがな。
齢16歳、高校2年生の入学式を迎えたこの日、ついに俺は気づいたのである。
素敵な恋とか、運命的な出会いなど起こるはずもないと。
いや、起こらないわけじゃないだろう。正確ににいうならば、起こさなければ起きないというべきか。
要は、それを勘違いさせた、ゲームとかドラマとか漫画が悪い。
あの登場人物って何もしないじゃん、でもうまくいくじゃん。だから、自分も年齢を重ねれば、そのうちそうなると思ったんだ。
そんなものに期待した、俺にもわずかながら責任が無いともいえなくも無い。
俺に彼女ができないほどマイナスな点はないはずだ。
顔はとりあえず、女子に引かれない程度には悪くは無い、惹かれるかどうかは別として。
身長は、平均程度。これはマイナスポイントにならないだろう。
頭は理系科目は苦手だが、文系はそこそこできるし、英語なら自信がある。あくまでもテストができる話で、英語が話せるわけではないタイプだが、成績がそこまで悪くないなら、マイナスポイントにはならないだろう。
性格については、周りからの評価しかないから、俺では判断不可。強いて言うなら金はない。
やはり彼女がほしい。今の男友人と遊んだりしている生活も楽しいといえば楽しいが、やはり学生生活を彩るには、彼女がほしいものだ。
「というわけで、彼女がほしいんだ。ジョニ男、なんとかならんか」
「それは彼女がいるやつに相談しろよ。俺だってほしいわ。というか、ジョニ男って呼ぶな」
さて、このジョニ男は、岩井林太郎。俺こと桐林樹の1番の友人であり、学生生活を楽しく過ごせている要因でもある。ちなみにジョニ男は俺のつけたあだ名だ。
ジョニ男はとにかくかっこよくて、かっこいい男の名前=ジョニーという俺の観点から、ジョニ男という適当な名前を付けた。ジョニオと読むのだが、なぜか浸透してしまった。
「お前は彼女がいないが、女友達も多いし、彼女いない暦=年齢じゃないだろうが、俺よりは少なくともその辺のレクチャーはあるはずだろ」
ジョニ男は、かっこいいのでモテる。
ただそれはあくまでも友人関係まで。近い関係になると、ジョニ男の独特の癖で長続きしない。
こまかい理由はいろいろ理由はある。よくあるイケメンで、性格も悪くないし、話を聞く限り、こいつは悪くないし、悪意もないのだが。俺はまったく気にしないが。
まぁそれを抜きにしても、かっこよくて、性格がいいのだから、やはりモテることはモテる。
実際、こいつの側にいるおかげで、女子の知り合いも割りとできるのだが、こいつの近くにいる女子は、あわよくば、こいつを狙いたい女子だから、俺に縁ができる可能性は低い。要するに、こいつの癖の分があっても、その他で大きな差がついているから、勝負になっていないのである。
「とはいってもな、別にお前女子と話せるじゃん。俺の協力がいるか?」
「俺知らない人と話すの苦手だし……」
「嘘をつけ」
「えー、だってさ、たとえばだよ」
俺は目の前を通った女子に話しかける。
「すいません、ここはどこですか?」
「はぁ? 学校に決まってんじゃん」
そして女子は去っていく。
「これが俺の限界だ」
「いや、それだけできりゃ十分じゃん。好みの女子をナンパでもなんでもしてこりゃいいじゃんか」
「違うんだ。声をかけて友人関係になるところまでは、まぁできなくもない。だが、そこから男女の関係になっていこうとすると、俺にはそれ以上の経験がないからできない」
「なるほど、だったら、目的を決めればいいだろ。まず暇かどうか聞いて、その後食事にでも誘えばいい。食事なら目的も決まってるし、休日の昼とかなら、あまり下心もないだろ。こっちがおごったりすれば、向こうも1回食事代が浮くくらいの気分でいけるし、トークは樹まぁまぁできるから、気まずくはならんだろ」
「なるほど、断るのが苦手な内気な女子でも、用事があるとか、外食はしないとか言えば断れるから、あまり気も使わせないしな。さすがジョニ男」
相手にも優しい誘い文句だ。本当にいい奴といえばいい奴だ。ちょっと自分の癖をこらえれば、彼女がより取り見取りなのに。
~次の日~
「お、樹、どうだった」
「結果から言うと、成功よりの失敗だな」
「? どういうことだ?」
「まぁ話を聞いてくれ」
俺は昨日の出来事を樹に話す。
「あの!」
俺は意を決して、街中で女子に話しかけた。少し年上の人。俺の好みはしっかりしている人なので、どちらかというと年上が良い。
よく知らない相手のほうが失敗のリスク低いしな。チキンとか言うな。俺は初心者なんだから、まずはリスクを回避した行動を取ることはそこまで責められることではあるまい。
「すいましぇん」
あ、しまった噛んだ。いや、まだ取り返せる。
「あら? 私かな? 何かしら?」
幸いにもそんなに不審には思われていない。
「あの、よ、よろしければ、今週の土曜日のお昼に食事でもいかがですきゃ!?」
また噛んだ。いかん、やはりナンパという前提だと緊張する。
「あら、これはナンパかしら? ふふ、不慣れで可愛らしいわ、でもごめんなさい。どうしても今週は外せない用事があるの、後私は年上の人が好みだから」
「あ、そうですか……」
「でもありがと。頑張ってね」
回想終わり
「というわけだ」
「それは成功なのか? 結果は失敗に見えるが?」
「いや、考えても見ろ。俺はナンパという行為はもっと白い目で見られると思ってた。ところが、すごく優しかったんだ。初対面の年下がいきなり話しかけてきて、あの対応。これは今後に期待が持てる」
最初にナンパで大失敗すれば、今後も尻込みをする一方だっただろう。これは今後やりやすくなるじゃないか。
「じゃあこれからもナンパしてくのか」
「いや、やらない」
「え? 何で?」
「昨日やってみて分かったが、年齢層が違うと、そもそも都合が合わないし、彼氏彼女がいるかどうかも分からん。そして、付き合えても時間の共有ができない。やはり学校内で彼女を作り、花の学生生活を送りたい。その上で、無理だったら、ナンパに以降してけばいいんだ」
1度挑戦して、分かったが、やはり今はリスクを考えても、学生しかできないことをやりたくなった。
「そうか、まぁお前がいいならいいけど」
「でもいい結果だった。世の中草食系男子が増えて、こうやってがっつくのはバカにされる傾向にある。だが、草食系は草食系で、バカにされるんだ。どっちにしろバカにされるなら、前者の方がいいと思うんだ」
「俺お前のそういうポジティブなところは、本当に尊敬するわ」
「褒めるな褒めるな」
「これは本当に褒めてるわ」
「はっはっは」
「はっはっは」
世の中は意外と優しい。俺は安心した。