緑
俺は、新しい母親に対して違和感を感じていた。
時々ぎゅっと口を結び、左手で右手を抑えるしぐさを見せる。
「どうしたの。母さん。」
「…あぁ、何もないわ。気にしないで」
いつもと違うトーンで壁を作った。
彼女は危ない気がした。
俺は今日、学校を終えると弟に
「悪い、今日蒼村さんとこ行くんだった」
と、言って先に帰った。
弟は首をかしげていたが、わかったと言ってゆっくり歩いて行った
蒼村さんの家は俺の家の真逆の方向だ。
走って向かった。
「彼女が怪しい?」
「何か、知りませんか。」
「知らないなぁ。君らの件でしか話したことないし。」
「…嘘ですよね、それ。」
人は嘘をつくとき声が変わる。
「……便利な魔法だよな。分かったよ」
俺は、きっと気付いていたはずだ。
「彼女はお前らの母親の姉だよ。」
*
母は愛され方と愛し方を知らない。
「私、姉がいるの。」
「…うん?」相槌を打つ
「お姉ちゃん、私の事を殴るのよ。同じ場所に何回も」
母は窓を見ていた
「だから、家出してやったわ。」
まるで独り言のように。
「でも、つかまって。もっと殴られた。暴言も」
ちいさく、わらった。
「だから私もそうするの。」
「自分がする側だって示すの」
「だから、悪くないよね?」
わがままな幼女のような話し方。
狂ってる。
「殴ると、罪悪感と開放感でぐちゃぐちゃになるの。それは私への罰」
これが、母の最初で最後の本心だった。
*
俺は、家へ走り出した。
弟を守らなきゃいけない。
実は脆い彼の心を。
じっと耐えて出来た、あの細い身体を。
俺は守らなきゃいけない。
遅かった時には、同じ目に遭ってもいい
だから何をしたって、それは正しい。
俺も、狂ってる。ああ。分かってる。
もし、彼が死にそうならば俺が…




