跳んで来た猫
明けまして、おめでとうございます。
相変わらずのリハビリ的なエッセイで、申し訳ありません。
ぼちぼちと復活していく予定であります。
中学生の時の事。
校庭で朝礼を受けていたら、校庭の隅から1匹の子猫が生徒たちを見つめているのに気が付いた。
三毛の子猫だ。
遠目に見ても、とても可愛い。
そして僕には、その猫に見覚えがあった。
同じクラスのIくんの家の猫だ。
学校から歩いて10分もかからない所にあるIくんの家には、つい数日前にも遊びに行ったばかりで、その猫とも散々遊んだばかりだったのである。
朝礼が終わり、生徒たちが教室に戻り始めると、子猫は姿を消してしまっていた。
Iくんの家に帰ったのなら良いけど、学校の中をさまよっているかも知れないと思うと、ちょっと心配になった。
教室に戻ると、僕は子猫が学校に来ていた事をIくんに教えた。休み時間に一緒に子猫を探してくれとIくんに頼まれ、それを了承。
しかし僕には、休み時間を待つまでもなく子猫の行方が分かるかもという予感もあった。
僕たちのクラスは1階にあり、僕の席は一番窓側だったのである。
子猫が校庭からIくんの家に帰ろうとしたら、ほぼ確実にその窓の外を通る筈だったのだ。
僕は授業もそっちのけで、窓の外に注意を向けていた。
やがて――――。
予想通りに、校庭側からてくてくと1匹の子猫が窓の外を歩いて来た。
もちろん、Iくんの家の子猫である。
歩きながら、窓ガラス越しに教室の中を気にしている様だ。
僕は、隣に座っているIくんに、子猫がいた事を教えようとした。
が。
Iくんに声をかける前に、僕と子猫の目が合ってしまった。
子猫の顔に「見つけた!」という表情が浮かぶのが、はっきりと分かった。
そして。
子猫が跳んだ。
なんの躊躇もなく。
僕とIくんに向かって。
次の瞬間、子猫が窓ガラスに激突する音が、教室中に響き渡った。
突然の激突音に、教室中が大騒ぎ。
先生まで含めて皆が驚いている中、騒動の原因を知る僕が状況を説明しているうちに、子猫はいなくなってしまっていた。
せっかくIくんを見つけたと喜んだのに、窓ガラスに行く手を阻まれて、さぞやショックだった事だろう。窓ガラスに激突した痛みも、相当なものだった事だろう。
その場からいなくなった子猫の気持ちを想うと、やる瀬なかった。
なお、Iくんが家に帰ると、子猫はいつも通りの様子で出迎えてくれたそうである。