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紅白薔薇に口づけを  作者: 藤波真夏
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第一幕 授賞式の夜

久しぶりの投稿です。

当初の予定より、少し加筆しています。


第一幕 授賞式の夜

 時は大正。舞台は大日本帝国。町のあちらこちらで電灯が光りだし、町は別の表情を見せ始める。ハイカラな文化が目立ち人々はそれを楽しんでいた。そこへけたたましい声が響き渡った。

「号外! 号外だよ!」

 号外が発行され、東京を行き交う人々の手に次々と渡った。そこには太字でこう書かれていた。


 最年少文学賞ツイニ決定ス。


 今日は最年少文学賞の発表である。新進気鋭の新人が喉から手が出るほど欲しい栄光である。その授賞式が帝国ホテルで行われていた。各界の著名人が集結し、名誉ある文学賞を手にした人物を今か今かと待ち続ける。部屋全体が暗くなり司会者にスポットライトが当たる。司会者に紹介されて出てきたのはぎこちない燕尾服に身を包んだ若い青年。

 紹介されたのは紅原旭アカハラアサヒ。今まで無名の作家だったが今回出版した作品が大好評を呼びこのような賞を獲得するに至ったのである。旭は最年少文学賞のトロフィーをもらいぎこちない緊張の表情から笑顔へ変わった。

 トロフィーを持ち多くの新聞記者たちが写真を撮り始め、フラッシュがあちらこちらで点滅し始める。トロフィーを楽屋に置き、旭も文学賞のパーティーに参加する。全員でシャンパンの入ったグラスを持ち乾杯をする。

「やあ紅原! お招きありがとう!」

 旭が振り返るとグラスを持った男性とそれに寄り添う女性。

「泉さん! すずさん!」

 旭の親友で同じ小説家の高野泉タカノイズミとその妻高野すずだった。まだ旭が下積みをしていた頃や小説家デビューした時に世話になり現在でも交流が続いている。

「紅原さま。最年少文学賞おめでとうございます」

「すずさん。わざわざすいません。泉さんも」

「いいんだよ。すずも俺も紅原の受賞を心から喜んでいるんだ。むしろ招待してくれて嬉しいよ。な? すず」

 すずは首を縦に振った。歓談していると主催者からインタビューの時間だと声をかけられた。旭はごめんなさい、と一言。泉は気にするなー! と叫んで送り出した。紅原はすぐに新聞記者に囲まれ質問攻めにあう。少しあたふたと慌てながらも一つずつ丁寧に質問に答えていく。

 その様子を遠くから静かに見守る泉とすず。

「ここまで色々ありましたね。紅原さまもあなたさまも」

「そうだな・・・。逆に色々ありすぎた。でも色々あったからこそ今があるんじゃないのか? きっとあの人も喜んでいるはずさ。俺は、そう思う」

「そうですね」

 泉はシャンパンを一気に飲み干した。

 一方旭は相変わらず質問攻めを受けていた。

「今回受賞した作品ですがこれは何かモチーフとかありますでしょうか?」

「モチーフ・・・ですか。これにはモデルにした人がいるくらいですかね・・・」

「モデルですか?! ご友人などでしょうか?」

「そ、そうですね・・・。友人をモチーフにしたところはあるかもしれません。僕は知らないうちに友人をモデルにしてしまう節があるので・・・」



 質問攻めは続いた。ようやくひと段落して新聞記者たちから解放された旭は安堵の息を吐いた。シャンパンを一気飲みしてしまった影響なのか若干のほろ酔い気分で旭は授賞式会場のバルコニーへ飛び出した。夜風に当たり少し酔いを覚ました。月明かりが旭を静かに照らす。すると旭の燕尾服につけていたブローチが輝きだす。そのブローチは薔薇をイメージしたものだ。ブローチも最年少文学賞を受賞するともらえるものだ。この帝都では名誉や栄光の証として薔薇を模した贈り物が贈呈されることになっている。

 旭はただ夜空に向かって呟いた。

「僕は君にふさわしい人間になれたのかな?」

 バルコニーには花瓶に薔薇が入れられ、赤と白の薔薇の二種類がある。旭はその花瓶から真っ白な薔薇を取り出し香りを楽しむ。そしてツーッと流れる涙が一つ。そして白い薔薇に唇を寄せた。

 真っ赤な薔薇と真っ白い薔薇。

「やっぱり僕はまだまだ未熟な小説家だ。まさかこんなことになるとは思わなかった・・・。これも紅薔薇の運命なのか・・・」

 旭は夜風に当たりながら静かに思い出していた。まだ自分が学生という身分だったころに起きたこと。それがここまで自分を押し上げ、今に至るのだ。

 その人は僕にとっては純粋無垢で真っ白で美しい薔薇のような人だった。








最後までありがとうございました。

近いうちに投稿します。        藤波真夏

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