やっと出てきたバイオリニスト
マジでやっと……!!
続いて事情聴取を命じられているのは、三村亜沙子という女性である。
彼女は名古屋シティフィルという楽団で活動するバイオリニストであり、年中コンサートツアーで全国を回っているそうだ。
現在、彼女達の楽団は岡山県に来ているらしい。
岡山ならすぐ隣だ。
岡山市中心部には大きな市民ホールがあり、コンサートはそこで行われる。
駅からはやや離れた辺鄙な場所にあるが、広い敷地面積を誇り、収容人数はかなり多いであろうと思われる。
玄関および掲示板には『名古屋シティフィル楽団コンサート』のポスターが存在感を主張している。
日付は明日だ。
楽団は既に到着して、リハーサルのため集まっている。
会場の係員に事情を説明し、中に入ってホールの様子をのぞくと、舞台上には楽器が設置され、楽団スタッフであることを明かしするジャンパーを着た人達が、忙しそうに動き回っている。
駿河は静かに三村亜沙子の姿を探した。
見慣れない顔の男が二人、ウロウロしているのを身咎めたのだろうか、一人の中年男性が近付いてきた。
「あの……?」
「失礼ですが、三村亜沙子さんと仰る女性はどちらへ?」
駿河が警察手帳を示して見せると、相手はやや顔を強張らせた。
「亜沙子なら……あそこ、今、ピアノのところにいる男と話してる……」
ピアノのところには中年男性が一人と、写真で見た女性が話していた。
すると。影山はズンズンと相手に近寄っていく。
急いで駿河も後を追う。
「おい、あんたが三村亜沙子か?」
驚いてこちらを振り返った女性は、確かに被害届を出した本人に間違いないようだった。
「そうですが、何か……?」
綺麗な女性だな、と思った。
長いまつ毛に縁取られた瞳は黒目がちで、くっきりとした二重瞼である。長い黒髪に覆われた輪郭は細面で、女優だと言われても納得してしまう。
「広島県警の者です。少し、お話を伺えますでしょうか?」
すると、思っていたよりもあっさりとわかりました、と返事があった。
「それではこちらへ」
車の中で話を聞こう。
ここでは他の楽団員の耳がある。
「いったい何なんですか?」と、ピアノの椅子に腰かけていた一人の中年男性が立ち上がる。「我々は仕事中なのです」
さらさらしたやや長めの髪をした彼は、三村亜沙子を庇おうとしているのか、それでも冷静な声で訊き返す。
「こっちも仕事なんでね」
例の調子で影山が口を出す。
新里さん、と彼女は男性に声をかける。それから刑事達に向かって、
「……あのことですよね? アレックスの……」
駿河が黙って頷くと、
「外でもいいですか?」
異存はなかった。




