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かなり気を遣います

「それにしても本当に頭の悪い女だな、この橋本美帆はしもとみほって。男が新しい事業を始めたら、社長夫人にでもなれるとか考えたのか?」

 いきなり助手席の刑事は言った。


 被害届を出した橋本美帆という女性は、新しく事業を興す為の資金を貸して欲しいとアレックスに言われ、約500万円を渡したのだという。

「……そんな言い方をしなくてもいいじゃないですか」

「おい、お前。この女の顔写真を見たか?」

 見たが、それがどうしたというのだろう。

「ブスの見本みたいな女じゃねぇか! なるほど、この顔立ちじゃ嫁に行き遅れるだろうな。そしたら、海外からやってきた金髪碧眼の男にコロっと騙された、そんなところか?」

 あはは、と大きく口を開いて影山は悪い。

 

 気分が悪い。

 これから会いに行って話を聞く女性は確かに、地味な顔立ちをしていた。

 だが。ごく平凡な、平均的な日本人女性の顔である。

 

 実際本人に出会って、この男が何を言い出すだろうかと、駿河は気が気ではなかった。

 それに、だいたいそう言って人の外見をどうこう言う人間ほど、自分をわかっていないものだ。


『美形』の定義がよくわからない駿河でも、和泉が整った顔立ちをしていることぐらいはわかっている。そして影山もまた、おそらく最近の言葉で言うところの『イケメン』であろうことはすぐにわかる。

 だからと言って。

 

 もしもこの男が無礼な発言をしそうになったら、直前で止めよう。

 駿河は心にそう決めた。

 

 福山に到着した。橋本美帆は駅前にある英会話教室で子供向けの授業を受け持つ講師の仕事をしている。

 あらかじめ連絡を入れたところ、職場に来られては困るので、と駅から歩いて5分ほどの場所にあるカラオケボックスを指定してきた。


 平日の昼間はさすがに静かだ。

 橋本美帆は先に来て待っていた。

「アレックスが殺されたそうですね……」

 顔を合わせて自己紹介を済ませるなり、彼女はそう言った。

「あんたが殺したのか?」

 前触れもなく、影山が訊ねる。明らかに相手は気分を害した様子だ。

「申し訳ありません」駿河は急いで頭を下げた。「幾らか質問をさせていただいて、よろしいでしょうか?」

「……そのつもりでいらしたんでしょう? 嫌だったら、ここに来ませんでした」

「29日の午後9時から12時の間、どこにいた?」

 高圧的な態度で質問を投げかける影山に対し、答えはなかった。

 

 影山さん、と駿河は相方を部屋の隅に連れて行った。

「自分が質問するので、黙っていてもらえませんか?」

 ムッとしたのが空気でわかる。

「あぁ? お前、俺に命令すんのか」

 こんな時、和泉だったら何と言うだろう? そうして。

「……命令ではありません。ですが、警察の不文律にあります。質問は階級が上の方に優先権があるのだと」

 薄暗い部屋の中でも、影山が顔を真っ赤にして怒ったのがわかった。

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