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 多大な疲労感を覚えて美咲が家に帰ると、周はいなかった。

 メイだけが留守番をしていたようで、ドアを開けると飛び付いてきた。

 賢司はすぐに自分の部屋にこもってしまう。

「メイちゃん、周君はどこに行ったのかしらね?」

 

 すぐに隣室の住人が思い浮かんだが、駐車場に車はなかった。友達の家にでも行ったのだろう。

 その時「ただいまー」と玄関のドアが開いた。

 

 美咲は心底安堵した。もしもこのまま賢司と二人でいなければならないとしたら、それこそ窒息してしまうほど苦しかった。

 

 彼は自分のことをひどく憎んでいる。母親と自分から父親を奪った女の娘。

 一番恨むべき相手はもうこの世にいない。だから……。

 

 周が父親の違う実の弟だということを、美咲は賢司と結婚する直前に知らされた。

 その存在は知っていたが、一度も会ったことはない。

 美咲にとって唯一血のつながった肉親である。嬉しかった。


 しかし周はまったく真実を知らされておらず、かえって美咲について歪んだ情報を吹き込まれていた。

 だから初めはまったく心を開いてくれず、寂しい日々が続いた。


 その上誰の仕業か知らないが、美咲が駿河と今でも不倫関係にあると誤解まで植え付けられた。


 周は疑うことを知らない。

 賢司が言ったことは本当にその通りだった。

 

 それから和泉の助けもあって今に至る訳だが、周と美咲を引き離そうとする、陰険で回りくどい様々な企みはすべて賢司によるものだった。

 薄々美咲もそのことには気付いていたが、ある日、本人の口からそう聞かされた。

 

 君に幸せになる権利はない。彼はそう言った。


「……義姉さん、なんか怒ってる?」

「え? どうして……」

「怖い顔してたから」

「ごめんなさいね、考えことをしていて。あら……?」

 カゴから出てきた三毛猫の首には見たことのない首輪がはまっていた。

「どうしたの? これ」

 淡いブルーの光沢あるリボン。美咲の好きな色だ。

「友達が……プリンに、ってプレゼントしてくれた」

「お友達って、智哉君か円城寺君?」

 すると周はなぜか目を泳がせた。

 美咲は後で気づいたのだが、彼らのうちどちらかなら智哉がとか、信行が、とか言うことだろう。

 

 その時はまさか、その友人が彼だとは思わなかった。


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