今度は警視庁の刑事と
「君は、いや君と美咲は二人揃ってどこまで恥をかかせたら気が済むんだ?」
「俺や姉さんがいつ、恥をかかせたって言うんだよ?!」
言いがかりだ。周は賢司を睨んだ。
「……普通に生活している分には、警察の人と事件を通して知り合ったりはしない。今年の春からこちら、何度いろんな事件に巻き込まれた? 気がつけばいつも、君も美咲もお隣の刑事達のお世話になっているだろう」
言い返すことができない。
でも、自分達がそれは望んだことではない。
賢司は再び歩き出して空を見上げながら言った。
「本当はね、夏休みが終わったら東京の高校に転校させようと思っていたんだ。もう二度と面倒に巻き込まれるのはごめんだからね。だけどさすがに、高校はこっちで卒業させてやろうと思って猶予したんだ。だから、大学は東京に行ってもらうよ。今度は警視庁の刑事と仲良くなるなんていうのは、本当にやめてくれ」
周は兄の背中に向かって答える。
「それは……俺が藤江の家に戸籍を入れてもらってるからだろ?! でもそんなの、俺には関係ない! あんたの母親は俺のこと、二言目にはどこの馬の骨って……!」
周が『藤江の家に産まれた男子』であることは間違いない。
自分の行動いかんで家名に傷をつける可能性があることも。
賢司の母親はしかし、周が本当に藤江悠司の子供なのかと終始疑っていた。
「君は間違いなく藤江悠司の子供だよ。だからこの家に産まれた以上、好き勝手は許されない。わかったら、くだらない進路希望は取り消すことだね」
何を根拠にそう言い切れるのだろう?でも今は、そんなことを訊ねる気分ではない。
「俺は、姉さんの弟だ……」
「ああ、そうだよ。僕の父を奪った寒河江咲子という女の産んだ子だ」
「……知って……?」
「知っているよ、当然だろう。君が何を考えているのか知らないが、くだらないことは考えるな。僕の言う通りにしておけば間違いない」
「……嫌だ! 俺は家を出る。姉さんと一緒に生きて行く。あんたの言いなりになんて絶対にならない!!」
すると賢司は憐れむような眼で弟を見つめた。
「そうすると、美咲は一生独りのままだよ。好きな男と結ばれることもなく、そのまま年老いて死んでいく……」
「なんでだよ?!」
「美咲の家が、いくらの借金を抱えていると思っているんだい?」
考えたことがなかった。周は愕然とした。
「君達が一生かけても返済できないだろうね。二人で生きていくのもいいと思うよ。ただし、僕は美咲とは別れない。別居もごめんだ。スキャンダルは困るんだよ」
賢司は行くよ、とスタスタと歩きだす。
自分の考えが甘かったことを思い知らされて、周は何も言うことができなかった。




