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 未だにあの息子が何を考えているのかわからない。

 聡介は呆然とすることしかできなかった。

「班長、どうしたんです? ジュニアの奴は」

 紙パックのジュースを啜りながら友永が訊ねてきた。

「わからん……お前、わかるなら教えてくれ……」

「無理です」終了。

 

 頭が痛い。胃も痛い。

「班長。胃薬と頭痛薬、どちらにします?」結衣が水と一緒に薬を持ってきてくれた。

「……頭痛薬にするか」

 聡介は頭痛薬を手に使用上の注意を読んだ。

「それにしても和泉さん、いったい何を考えているんでしょうね」

「……それが解れば、俺だってこんな薬に頼ったりしない……」

「ですよね……」

 結衣も溜め息をついた。

「でもなんか、2、3日後にふらっと、用事が済んだから捜査に戻りまーす、聡さんとコンビ組ませてくださーい、とか言いそうじゃないですか?」

「それは、刑事の勘か?」

「うーん、強いて言うなら女の、うさこの勘です」

 聡介は思わず笑ってしまった。


 そこへ、

「高岡警部! 被害者の友人だという方がお見えになりました。遺体安置所にご案内致しますか?」制服警官がやってきた。

「わかった、俺が行こう」

 聡介は立ち上がり、会議室を出た。


 何年刑事をやっていても慣れることはない。遺族を遺体に対面させるのは。

 反応は人によって様々だが、悲しみにくれる人達の姿を見るのは断腸の思いである。

 やってきたのは二人。金髪碧眼の白人女性と、日本人男性。


挿絵(By みてみん)


「アレックスが戻らないので心配になって、捜索願いを出そうかと相談していたら、たまたま通りかかった人に宮島で外人の遺体が見つかったと聞いて……まさかと思って来たのです」

 西島進一にしじましんいちと名乗った青年はそう語った。


 彼はアレックスとルームシェアをしているそうだ。

 連れの白人女性はビアンカと名乗り、広島経済大学のドイツ語講師で、被害者とは友人だと説明した。

 

 消毒液の臭いがきつい遺体安置室で、被害者の顔にかけられた白い布をめくると、ビアンカは息を呑んだ。

 進一はしばらく無言のあと、アレックスに間違いありません、とはっきり答えた。


「ご確認ありがとうございます。少しお話を聞きたいので、こちらへ」

 聡介がドアを開けると、歩きだそうとしたビアンカはふらっと揺れて壁に手をついた。

「大丈夫ですか?」

 思わず手を伸ばして肩に触れる。

 ビアンカは驚いた顔で振り向き、それから上手な日本語で失礼しました、と答えた。


 応接室に向かう廊下を歩いている間、何度か彼女はふらふらしていたが、その度に進一が彼女を支えた。

 この二人は恋人同士だろうか?

 

 だとしたら、彼女を巡り被害者との間で三角関係があり、それが殺人事件に発展した?

 しかし被害者は結婚詐欺で訴えられていた。

 三角どころか、幾重にももつれた痴情か?


「私を疑っているのですか?」

 急にビアンカが聡介を振り返り、そう言った。

「えっ?」見透かされた?

「今、怖い顔で私を見ていましたね」

「……気のせいですよ」

 まさか気付かれるとは。


 応接室に到着する。

 お茶を運んできた女性の事務員に礼を言い、彼女は言った。

「……アレックスは女性に殺されたのでしょうか?」

 碧く澄んだ瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

「なぜそう思うのですか?」

 ビアンカは少し眼を逸らし、言いにくそうに言った。

「いろいろと悪い噂を聞いていました。何人もの女性と結婚の約束をして、何かと理由を作ってはお金の無心をしていたと。本当かどうか本人に確かめたのですが、のらりくらりと暖簾に腕押しです」

 外国人にしては日本語も上手く、今時の若い子は知らないかもしれない慣用句を使っている。

「……本当に罪深いことです。昔から、女性にだらしない男でしたが、お金にまで汚いなんて」

「昔から……?」

「実はアレックスは私のフィアンセでした。いえ、親が勝手に決めたことです。でも……はっきり断って、婚約を解消してもらいました」

 彼女はいったいいくつなのだろう? 妙なところが気になった。


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